Chapter3−3 三人目の祝辞

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3  数週間後、ユージは自動操縦車専用道路(オートニマスストリップ)一号にいた。両手をパーカーのポケットに突っ込んで、イライラと靴底で貧乏揺すりをしながらその時を待ち構えた。  相手はマイクロバスの時間きっかりに現れ、ユージを見つけてまっすぐにキャリーケースを転がしながら歩いてきた。おそらく、マキから自分の顔写真の一つや二つ見せられたのだろうとユージは思った。 「やっぱり、会ってくれると思ってました」  男──タカシは目を細めた笑顔で、低く柔らかな声で、静かに言った。上着を腕にかけた手をユージへ差し出す。 「浦添貴志です」  タカシはごく一般的な男だった。背は平均的な日本人男性の域を出ず、髪は特徴のない短髪をワックスで整えている程度だ。中年にしてはスラリとしていて、黙っていればアウトドア好きの三十代に見えただろう。  ユージは無言でしぶしぶと、差し出された手を握った。握手が済むと相手は「行きましょう」と言って、歩き出した。 「ここでは、車は全部自動運転らしいですね。指示も英語しか受け付けないとか。あなたが来てくれると思って、通訳は雇いませんでしたよ。英語はきらいというほどでもないし」 「俺はあなたの旅程に四六時中張り付くわけではありません」 「もちろん。一人でもたぶん何とかなりますよ。旅行でのトラブルは必要なら受け入れるだけです」  タカシは淡々と言って、片手を上げて自動操縦(オートニマス)車を捕まえた。停留所付きの鉄製人型(ヒューマノイド)ロボットが寄ってきて、車の荷物置きにタカシのキャリーケースを入れてくれた。タカシはにこりともせずに、スマートフォンのカメラでロボットを撮った。
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