Chapter3−3 三人目の祝辞

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「どうやってマキさんと知り合ったんです?」 「牧ちゃんが、戸籍住民課の待合いソファに、市役所開始八時半から終了十七時半まで、一日中座り続けている日が五日も続いたことがきっかけ。窓口のクレームになりそうだったので、私が出動。牧ちゃんはその頃泊まる家がなく、働くのも怖く、一日を市役所のソファで漫然と消費するしかなかった。全部後から聞いた話ですが。私は『一日いるなら図書館がオススメ』と、愚にもつかない助言した記憶があります」  タカシはワインをスルスルと飲み進めてグラスを空にし、自分でワインをとって自分で注いだ。 「牧ちゃんを追い出したその日、私が退勤すると彼女が役所の入り口で途方に暮れていました。田舎ですから、夜になると人も減って危ないですし、彼女はどうも、ずっとその場にとどまっているような危うさがありました。話しかけると、行くところがないし、金もないと言うので、私は申し出ました。『うち来ます?』」 「おい待ておかしいぞ」 「牧ちゃんは承諾しました。承諾せざるを得なかったと言うべきでしょうか。おそらく、男性から家に誘われたのは初めてではなかったのでしょう。なにせ牧ちゃんはかわいい」 「おいそこで惚気をぶち込むのはやめろ頭がおかしくなりそうだそれにしたっておかしいぞ」 「じゃあ、あなたならどうします? まあ、放っておくのが一番無難でしょうがね」  ユージは一秒前と打って変わって黙りこんだ。 「言い忘れていましたが、その頃私が死んだ両親から譲り受けていた実家には、妹夫婦が帰省していました」 「それを先に言ってください」 「二人だと思い込んだのはあなたですよ」  ユージはぐうの音も出なかった。タカシは莞爾として笑った。
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