Chapter3−3 三人目の祝辞

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「あなたの言いたいことはわかります。なぜ私が牧ちゃんを放っておかなかったのかを聞きたいのでしょう」 「ええ、まあ、そうです」 「は他人に興味がありません」 「え?」 「ちょっと長くなりますが、僕の身の上話です。  僕は他人に共感ができない性質(タチ)です。新人の時、上司に酌をせずに怒られたことがありますが、怒られた理由がわかりませんでした。見よう見まねで酌をしようとすると、『なんで常にスタンバイしているんだ。タイミングでわかるだろ、タイミングで』と言われました。  周りができることが、僕にはできないようです。  同期の子が一人、カッターか何かで怪我をして救急車沙汰になりました。僕が救急車を呼びましたが、その後、怪我をした後輩を放っておいて仕事を続けていると、同僚の一人が、『浦添くん、大丈夫の一言もないの?』と言いました。救急車を呼んで応急処置も済ませたのに、この人たちは何を騒ぎ立てているのだ、と僕は思いましたね。  こういったことが、昔から何度もあります。僕は他人に共感しないのです」 「はあ」 「牧ちゃんを市役所から追い出したとき僕は三十九歳でしたが、一度も誰かと真剣な恋をしたこともありませんでしたし、独身でした。老後は孤独死までどう生きようかなどと考えて過ごしていました。  まあつまり、僕は常日頃から一人でした。これでも僕は一応人間ですから、時々無性に寂しくなることがあります。  なので、いつも一人でいる牧ちゃんは──平日八時間、ずっとソファでひとりぼっちの牧ちゃんは──一体どんな気持ちだろうかと、共感できないなりに考えました。  寂しく時間を過ごすならば、せめて夜くらいは屋根の下で一人がいいでしょう。暗い外で一人よりは。これが、僕が牧ちゃんを家に誘った理由です」 「はあ」ユージは曖昧な相槌を打つしかない。
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