Chapter3−3 三人目の祝辞

25/49
50人が本棚に入れています
本棚に追加
/541ページ
「だからユージくんのような、心情と言動が一致しているタイプは僕には非常にやりやすいということです。言外の裏を読んだり、共感のために心理を探る必要がないので。  閑話休題。僕は彼女を何日か家にいさせてあげましたが(あなたが牧ちゃんをどこかまで知っているかはわかりませんが)牧ちゃんはどちらかといえば、自分の身の回りの世話すらもままならないタイプです。  用事を忘れる。計画を立てるが遂行されない。何か作業をしているうちに別のことに気が移り、作業を忘れる。朝に弱い。予想外の事態にはオロオロとして動けなくなる。自分の言いたいことが相手の話題によって流れて忘れる、等。  僕は彼女が家にいる間、こさえてくるそういったトラブルを淡々とフォローしました。僕には目の前に落ちてきたタスクをこなすだけのつもりだったのですが、彼女はひどく恐縮します。こんなことは初めてだと牧ちゃんに言われました。大抵の人間は、自分のにうざりして見限るのだと言うのです。  僕たちは、お互いに同じ屋根の下で暮らしていてもほとんどストレスがないことに気づきました。 「普段僕は他人に共感しないので、あたかも他人の気持ちに共感しているような意見が必要な時は、今までの周囲の統計を用います。  本心ではないことを二十四時間出力しているような感覚です。それで毎日をやり過ごしています。  ですが、牧ちゃんは、正直な人でした。いや、人を疑うことを知らない、と言うべきかな。  僕がなにか『相手の気遣いのためにはこう言ったほうがいいのだろう』と、まったく本心ではないことを言っても、牧ちゃんは嬉々として聞いてくれます。僕には新鮮でしたね。彼女の中では僕の言葉は『本物』になるらしいのです。『浦添さんは優しいですね』なんて言って。結婚詐欺師に騙されやすいタイプです。  ですが僕は、そんなことを言われたこと自体が初めてなので、純粋に嬉しいと思いました。  さてそうなるとですよ、彼女が家を出る理由もなく、僕が彼女を追い出す理由もなくなったわけです。なので僕は、彼女が別の新天地を見つけ、出て行くと言うまでは家にいてもらうことにしました。同居生活の始まりです」
/541ページ

最初のコメントを投稿しよう!