嘘つきは泥棒の始まり

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 遮光カーテンの間から差し込む太陽の光が、瞼の裏を赤く染める。  ベッドの設置位置を間違えてしまい、休みの日の朝はいつもこの光で目が覚めてしまう。いつもだったらイライラしながらも往生際悪く二度寝を試みるところだけれど、今朝は違っていた。私はここ数年味わった事の無い様な清々しい気持ちで目を覚ました。  ウソジリ法が適用されて世の中はどうなっているだろうか。  私は毎週月曜日が公休日になっている。休みで家にいる私はまだ布団の中にいるけれど、世間一般の人達は丁度出勤、登校を始める時間帯の筈だ。  昨夜は結局日付が変わるまでベランダでみんなの喧嘩の音を聞きながら過ごした。ウソジリ法が適用になる0時を超えると、周りの怒号も更に激しさを増していった。  いつもだったら隣の喧嘩の大きな声に、掛け布団を頭から被ってイライラしながら一晩過ごしていたのだけれど、昨日は隣りの怒鳴り声を子守唄の様に感じながら穏やかな気持ちで眠りについた。  まだ「青春ラ・ブス通り」が読み途中だった事に気がついたけれど、そんな事はもうどうでも良かった。  それよりも現実の方がよっぽど面白い。  私はワクワクしながら布団の中で辺りの様子に耳を澄ませた。  昨夜の様な人の叫び声の様なものは全く聞こえてこない。  まさか激しい喧嘩の果てにみんな滅びてしまった、なんて事は無いよね……。  チュンチュンとのどか過ぎる鳥のさえずりの声が聞こえてくる。アパートの前の通りを車が通り過ぎる音がしていた。  近くの保育園に向かう親子達が挨拶を交わす穏やかな声が聞こえてきた。  いつも通りの、特に代わり映えの無い日常の音がしている……。  なんだ……。  私は布団の中でふーっと長く息を吐いた。先程までの高揚感が吐いた息と共にシュウと音を立てて萎んでいく様な気がした。  そりゃそうだ。「嘘つきは泥棒の始まり」なんて無茶苦茶な法律、ある訳無いよね……。 「青春ラ・ブス通り」の続きがどうなったのか覚えていないって事は、まだ読んで無いというのは夢では無い様だけど……。  見上げると、新築以来五年間ずっと住んでいるアパートの部屋の白い天井が、いつにも増して白々しく見えていた。
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