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最終章
雪も降りやみ、うっすらと太陽の光が、窓際の席の私の頬にあたる。
「はぁ...」
頭の中は授業ではなく、小山先輩のことでいっぱいだった。
(あのボールの意味はなんだろう?もしかして好きってこと?いや、そんなことないよな)
朝の雪の中の出来事を思い返していた。
「とんちゃん、部活の先輩んとこに行くんだけど、一緒についてきてくんない?」
その先輩は小山先輩と同じクラスだった。
「うーん...いいよ!」
(会えるかもしれない!)
3年2組の廊下、せっちゃんの用事が終るまで待っていた。
教室の中に小山先輩を見つけた。
(目が合った!え?こっちに来る!)
席を立ちこちらに歩いてきた。
(うそ!うそ!)
「今朝はありがとう」
「あ、はいっ、ボールありがとうございました」
「今日は午前で下校なんだ、俺達」
(そうだ!もうすぐ卒業式だ!)
「あの...小山先輩、卒業式終わったら体育館の裏に来てもらえませんか?」
思わず口に出してしまった。
「わかった、いいよ」
「ありがとうございます」
「じゃ、また」
「はい...」
第2ボタンと告白、それが目的だった。
もらえるのか、受けとめてもらえるのか、わからないけど...。
体育館の中はまだ肌寒かった。
拍手の中、3年生達は体育館を出ていった。
悲しい気持ちよりも、この後のことで頭がいっぱいだった。
(もー、先生話長いよぉー、早くホームルーム終わりにしてよ!)
「1年間ありがとう、3年生になったら受験だぞ、みんな頑張れよ」
(はいはい、わかってますから早く終わりにしてー)
みんなが席を立ち、話をし始める中、私は1番に教室を出た。
体育館の裏へと。
まだ来ていなかった。
雪の中の時よりももっとドキドキしている。
(来るのかな、来てくれるかな)
「待った?」
(きた!)
胸にカーネーションを着け卒業証書の筒を持った小山先輩が立っていた。
「いえ、さっき来たばかりです」
(第2ボタンまだ着いてる!)
「卒業おめでとうございます」
「ありがとう!」
「あの...第2ボタン欲しいです、もらえませんか?先輩のこと好きなんです!」
(言えた!)
「え?第2ボタン?いいよ」
ボタンをもらうときに少しだけ触れた先輩の大きな手..
と、次の瞬間、顔を見ることが出来なかった。
「俺、高校へ行ったら甲子園目指すんだ。だからその事だけに没頭したいと思ってる。村田さんの気持ちすごく嬉しいけど、ごめんね。」
「...いいんです、応援してます!試合も見に行きます!」
(私、何を期待してたんだろう...)
「ありがとう!」
と差し出された右手に、私の右手が重なっていた....とても温かく大きな手だった。
頬を伝うものは無く、微笑みがそこにはあった...ドキドキはどこかへいってしまった。
【卒業だけが理由でしょうか、会えなくなるねと右手を出して...】ラジオから聞こえてくる歌。
その時初めて頬に、溶けた雪のようなものが伝っていった...。
ホワイトデーに雪なんて、寒くて嫌だなんて思う人もいるかもしれないけど、私には淡くて白い思い出がある。
実らなかった恋。
淡くて白い雪のような..。
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