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謎が解けないまま、お茶会の日が来てしまった。
第一印象は大事。高杉くんのお母さんとは初対面のはずだから、念のため少しおしゃれをしてから行こうと思った。でもいきなり電話してきたのだから、向こうからすれば初対面じゃないかもしれない。もしかしたら、私をどこかで見かけたことがあるとか。だとすれば、どこだ。卒業後、学年共同の同窓会が一度だけ行われたことがあったが、私はもちろん出席しなかった。群れることが嫌いなのは今も変わらない。もし出席したとしても、彼の母親がその場にいたとは思えない。それ以外で接点があるとすれば、どこだ。記憶をどんなに掘り下げても、心当たりは何ひとつ出てこなかった。
指定された約束の場所は、高校近くにある落ち着いた雰囲気の喫茶店だった。店のドアを開けると、店主と思われる白髪で白髭のおじいさんが出迎えてくれた。今どき珍しく、おじいさんはスーツ姿で蝶ネクタイをしていた。白髭の整え具合を見れば、毎朝かなりの時間をかけて手入れしているのがわかる。店内は照明が暗めで、ステンドグラスのランプがレトロな雰囲気を醸し出していた。現代っ子から見れば少し古臭いかもしれないが、帰国したばかりの私にとって、その古臭さは逆に居心地よく感じた。一歩中に入ると、紅茶の良い香りが漂ってきて、マダムたちの上品そうな笑い声が聞こえた。
「三時に、二名で予約してあると思います。柳です」
店主にそう伝えると、私は店内をじろじろと見渡した。卒業アルバムで見た高杉くんに似たマダムがいることを期待して。
「柳様ですね。高杉様がそちらでお待ちしております」
店主は、店の奥で本を読んでいたマダムを指しながら、にこやかに言った。
そのマダムを注意深く見ながら、私はテーブルの間を通り抜け、ゆっくりと彼女に近づいた。
「こんにちは、柳と申します。高杉くんのお母さまですか」
少し緊張気味に、本を読むマダムに声をかけた。
「あら、こんにちは。高杉です。初めまして、ですね」
高杉くんのお母さんは、満面の笑顔を私に向けながら軽くお辞儀をした。端正な顔にしわが綺麗に刻まれているが、若い。そして美人だ。
「失礼します」
私は会社の面接並みに緊張しながら、彼女の向かい側の席に座った。綺麗な人に会うと緊張してしまうのは、男性に限ったことではない。
「とりあえず何か頼みましょう。ここはダージリンがとても美味しいのよ」
「じゃ私はお母さまのおすすめでお願いします」
高杉くんのお母さんは、常連といった感じで、本日の紅茶セットをふたつ注文した。
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