奇妙なベビーシッター

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 目の前にいるマダムは、本当に高杉くんのお母さんだろうか。卒業アルバムの高杉くんとは確かに目元が似ている。しかしそれ以外は、正直、よくわからない。だが、化粧も装いも上品で、ぱっと見た感じ怪しい人には見えない。歳を重ねた時、彼女のようになりたいとすら思った。 「急に電話して、しかも呼び出しちゃって、ごめね。驚いたでしょ。ルナさんとは一度、お会いしてみたかったのよ」  彼女はそう言うと、カバンの中から何かを取り出して、テーブルの上に広げた。高校の卒業アルバムだった。 「これがあなたでしょ」  私の写真のページには付箋が貼られていた。恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。私は苦笑いをしながら、自分の顔がひきつっていないかが気になった。 「それで、今日はどのようなお話で?」  高杉くんのお母さんが本物であることはこれで確認できた。彼女への疑いが晴れたところで、私はさっそく本題に入った。大した用じゃなかったら、わざわざ電話で呼び出さないはずだ。  すると彼女は私の顔をじーっと見つめながら、真剣な眼差しでこう切り出した。 「ルナさんがフランスから実家に戻ったと聞いて、実はひとつ、お願いしたいことがあるの」  頼み事。借金か。留学で散々散金した私には貸せるお金が一文もない。警戒心が思わず顔に出たのか、彼女は慌ててこう付け加えた。 「あ、警戒しないでね、ルナさんのことは、山田先生から聞いたの。ルナさんとは今でも連絡を取り合ってるって山田先生、とても自慢してたのよ」  なるほど、これで私の個人情報の漏洩についての謎が解けた。犯人は山田先生だったのか。
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