奇妙なベビーシッター

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 山田先生、高校三年生の時の担任の先生。誰とも群れたがらない私がクラスで孤立しているように見えたのか、先生は私のことをいつも気にかけてくれた。卒業後も年賀状を出すようになり、そして留学についても先生には相談した。まさに人生の先生である。  山田先生のことを懐かしく思っていると、彼女はこう続けた。 「山田先生はね、剣道部の顧問で、真一のことでとてもお世話になったの。それで、ルナさんにお願いしたいことというのは」  紅茶をひと口飲むと、彼女は私の顔をうかがうように控えめにこう質問した。 「ルナさん、今、何かお仕事をされてますか。お忙しいですか」  痛いところを突かれ、というよりも、触れられたくないことについて触れられ、どう答えていいかと悩んでしまった。ニートです、とは言いたくない。 「まだフランスから戻ってきてそんなに経ってないので、今は就活中です。でもまだこれといったものはなかなかなくて、なので忙しくないです」  言い訳っぽく聞こえるかもしれないが、プライドが邪魔してそういう答え方になってしまった。私の気まずさが伝わったのか、彼女は慌ててフォローした。 「そうよね。まだ帰ってきたばかりですものね。でもまあ、それならよかった。ルナさんにお願いしたいことというのは、その、よかったら、アルバイト、しない?」  お母さんは言いづらそうに、反応をうかがうように私の顔をのぞき込んだ。 「え、アルバイト?何のバイトですか?今暇なので、それは助かります。お力になれれば是非やりたいです」  求人広告にも飽きていたので、アルバイトの誘いは素直にうれしかった。そろそろ家を出て、とりあえず何かのバイトでお金を稼がなければ、と思っていたところだった。もちろん、怪しいバイトでなければ。 「バイトの内容にもよりますけど、怪しいものでなければ」  しまった、思っていることがそのまま口から出てきた。失礼な言い方になってしまったかもしれないと思い、なんとなく気まずくなった。 「あ、大丈夫、全然怪しくない、心配しないで」  彼女は手で口元を隠しながら上品そうに笑った。 「実は、息子の真一のことだけど、数年前に会社を辞めることになって、その後いろいろあって、今は家にいるの。外出もしなければ友達もいないし、兄弟もいないからずっと一人なの。声をかけても心ここにあらずという感じで、だから、誰か話し相手になってくれる人がいればいいなと思って、ルナさんを思い出したの」  お母さんはそう言うと、紅茶のコップをじーっと見つめながら黙り込んだ。
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