奇妙なベビーシッター

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 なるほど、片付けもボケ予防になるのか。古希を迎えたばかりの父は、筋力が落ちているせいか、確かに脚が細くなったように見える。母は、父に少しでも多く動いてほしい様子だった。  当たり前のことだが、父と母は、私のいない間、二人だけでここで生活をしていた。彼らには彼らの生活リズムがあり、二人にしかわからない暗黙の了解があった。私が戻ってきたことで、それが乱れることのないように気をつけなければ。キッチンで洗い物をする父の背中を見ながら、私はそう自分に言い聞かせた。  ネットで求人広告をあさり始めて一週間、フランスに比べて圧倒的に求人数が多いことに気づく。それもそのはず、フランスに限らず、欧米は失業率が全般的に高い。これは私が帰国した理由のひとつでもあった。料理学校を出た後、フランスでの就職も考えたが、人生はマカロンほど甘くはなかった。  日本は確かに求人数は多いのだが、どれも似たようなものばかりで、ときめきを感じるような出会いはない。職探しは恋人探しと似ている気がする。結局は縁とタイミングが大事だ。煮詰まっている時に無理すると良くない。ここで適当に選んでしまうと、後に出会うはずの良い縁に巡り会えなくなってしまう。立ち留まるのは前に進むためだ。忍耐も時には必要。ちかちかする求人広告をスクロールしながら、私はそう自分に言い聞かせた。だが、職にも恋人にも恵まれない自分の考えが果たして正しいかどうか、自信はまるでなかった。
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