西

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西

 私の人生は、控えめに言っても順風満帆だ。都内の裕福な家庭で何不自由なく育ち、成績も優秀、容姿にだって自信がある。学生時代から希望の進路へスムーズに進み、今は大手広告代理店に勤務して4年目。そして同じ職場の1つ先輩で部署内の憧れ、東部翔さんと2年程お付き合いしている。社内恋愛なので周囲には秘密だ。    当然仕事は楽ではない。しかし、華やかな世界に身を置いている実感と達成感で満たされる私には苦痛ではなかった。    今日も夕方から、メインクライアントである大手化粧品メーカーの女性担当者とミーティング。少し年上のお姉さんだが案外気が合う事がわかり、打ち解けてきたところだった。外の空気が吸いたいとのご要望にお応えして、表参道のオープンカフェで待ち合わせ。軽めの挨拶を済ませて、早速本題に入る。  「秋の新商品キャンペーン、ターゲットは20代女性でしたよね?」  「そうそう、20代から始めるエイジングケアの基礎化粧水だからね」  「それなら、少し予算はwebに寄せますか?」  「そうだな……うん、そうね、web広告と、あとは店頭キャンペーンをメインにしようかしら」  「承知いたしました!まずは大まかにプランニングしますね」  「ありがとう、いつ頃頂けそうかしら?」  「今日が水曜日だから……今週中にはギリギリお送りできるかと」  「流石、あずみちゃんは仕事が早いものね」  優秀な私は、帰り道に早速電話を掛ける。相手は更に優秀な先輩だ。  「お疲れ様です東部さん、今夜仕事の相談で少しお時間頂けますか?」  「おう西内、お疲れ様。拒否権はなさそうな話だな」  笑って誤魔化して、集合時間と予約した個室レストランを伝えた。仕事の相談は半分本当だから社内ミーティングとして共有スケジュールに登録する。こうでもしなければ平日はなかなか時間が取れないという点では、秘密の社内恋愛も大変なものだ。    「全く、あずみとは担当チームが違うんだから少しは遠慮しろよな」  そうは言うものの、にやけ顔なので説得力は皆無。これでも部内トップの成績を誇るエリート営業マンなのだから世の中は不思議だ。仕事の出来る男はカッコいい、そしてこの可愛いギャップが堪らない。ワイングラスを傾けながら私を見つめる彼は、仕事中とは別人のようだった。  「頼られてうれしかったくせに」  「まあ、悪い気はしないけどな」  プランニングについては翔のツテを使って、返答が早い取引先の担当に直接メールしておく。これで明日の午後には準備が整うはずなので、納期に難無く間に合うだろう。こんなところは本当に頼れるから助かっている。  「ところでさ、最近南野と話してるか?」  「かなこ?丁度明日ランチの約束してるけど、なんで?」  「いや、このところ南野のチームの……ええと、あれだ、北村!その子から妙に連絡が来るんだよ」  「ああ、えりちゃんかな」  「何それ、モテ自慢?」  「いや、決して、そんなんじゃないけど」  あからさまに焦っちゃって。ただ、わざわざ報告してくるのだから今のところやましい事は無いのだろう。    「お誘いが来るって事?」  「そうだな、ぐいぐい来る感じ。あまり冷たくも出来ないし困ってるんだ」  「ふーん」    とりあえず疑いのまなざしを向けてみる。  「いや、全部ちゃんと断ってるからな?」    「ホントかなあ?」    「勘弁してくれ」    「じゃあ、そろそろ公表しちゃう?付き合っていること」  「そりゃダメだ、俺が転勤になっちまう」  そうなのだ。社内結婚・恋愛は、周りが気を遣うとかなんとか言って勤務先を離してしまうのが大手の悪いところ。転勤先も山ほどある。当然それは困るので、二人の関係は隠さざるをえない。    まあ、モテない彼氏よりは断然良いが、少し面白くない話だった。仕方ないので、明日かなこに聞いてみよう。
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