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次の休み時間、さっそくG組にたっくを見に行った。
俺はA組なのでお互いの教室は結構離れている。だから気づかなかったのかな…?でも小学校も中学校も同じ学校だったなんて…いくらなんでも気づかな過ぎじゃない?俺がぼんやりしてた…?それともたっくんが意図的に俺の事避けてた―――?
こっそり教室を覗くと確かに成長したたっくんの姿があった。
友人らしいαたちと談笑していた。
笑顔がキラキラと輝いて見える。
好き。
芦崎が言うように本当に海外に行くって言ったのは嘘だった…?
―――どうして?
そんなの答えは分かり切ってる。俺の事が嫌だったからだ。
ずっとずっと不安だった。
番にしてって言ってみたはいいけどすぐに間違いだったって気づいたんだ。
恋焦がれていたたっくんにやっと会えたというのに辛くて悲しくて…でも好き過ぎて、たっくんの成長した姿に心臓がドクンと跳ねた。
ついさっき治まったばかりなのに発情期が来てしまった。
発情期はわりとメンタルに影響を受けやすい。
俺なんかは結構不規則で二、三ヶ月ない事や連続して何日も続く事も珍しくなかった。こうやって終わったばかりなのにまた始まってしまう事も。
ぶわりと香りが広がっていく。
ばたばたと倒れていくαたち。
たっくんは真っ赤な顔をして手で鼻と口を押さえていた。
すぐに俺の姿を認め、見開かれる瞳。
こんな風には会いたくなかったな……。
ぽろりと涙が零れた。
やっぱり俺ではダメだって事なんだね……。
たっくんの事本当に大好きだった……。
大好きだったから信じて何年も待っていられたのに――。
俺はそれ以上そこにいる事ができなくて、きついフェロモンを垂れ流しながら走って逃げた。
俺の通った後にはバタバタとと倒れたαたちの屍の山。
走って走って途中足が縺れて倒れてしまい、そのまま起き上がる気力もなくその場で蹲って子どもように泣いた。
「うぇ―――――ん…っ」
「――大丈夫…?」
顔を上げると先輩が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
俺が弱っている時、いつも傍にいてくれる先輩。
「どうしたの?何で泣いてるの?誰かにいじめられた?Ωは愛すべき存在なのに――」
眉を顰め俺を泣かしたであろう人物に対して怒りを露わにする。
先輩の怒っている顔は初めて見る。
俺の為に怒ってくれる優しい先輩。
「ひっくひっく…」
先輩は俺の事を抱きしめていつものように頭を優しく撫でてくれた。
俺はその温もりに小さい頃のたっくんの事を思い出していた。
たっくんもいつもこうやって抱きしめて頭を撫でてくれてた。
「好き」っていつも言ってくれてたのに…。
こんな時でさえ目の前の先輩よりたっくんの事を求めてしまう。
涙が更に溢れてきて止まらない。
「ねぇ…僕が守ってあげようか…?キミさえよければ僕のパートナーにならない…?」
「――え…?」
「僕はβだからαのように番う事はできないけれど、僕ならキミを悲しませないし守ってみせる。だから―――」
先輩は優しい。
先輩の手を取れば確かに悲しくはないかもしれない。
でも……先輩に抱きしめられて優しい気持ちにはなるけど、ドキドキしたりはしないんだ。
悲しくはなくても幸せにはなれない。
たとえこの先たっくんと番えなかったとしてもたっくん以外は考えられない。
俺の番はたっくんだけだから。
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