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ちょっと待ったー!
「ちょっと待った――――!!!」
背後から大きな声がした。
振り向くと息を切らせ肩で息をするたっくんの姿があった。
たっくん……?
「朱は俺と番うんだ!離してもらおうか!」
未だ抱き合ったままの俺たちを力任せにべりっと引き離した。
そして俺の事を抱き込む。まるで誰にも見せたくないとでもいうように。
成長したたっくんの大きな身体。俺だって決して小さい方じゃないのにすっぽりと隠れてしまった。
ドキドキと鼓動が煩く騒ぐ。
好き。
たっくんの事が大好き。
フェロモンが更に濃くなり二人の事を包む。
「―――くっ……」
たっくんから何かを堪えているようなくぐもった声がした。
俺のフェロモンが臭くて辛いの…か?
身じろぎたっくんの腕の中から逃げようとするがびくともしない。
「――げんな…っ逃げんなっ」
「だって……臭い…んでだろう?」
こんな事自分で言いたくはなかった。ましてや相手はたっくんだ。
口がさけても言いたくはなかった。
一度は止まったはずの涙が再び溢れ出す。
「くっ…。泣く…なっ……さくないっから…!臭くない、から!」
「――嘘…ばっかり……たっくんは嘘つきだよ……うぇ――ん…!」
俺を抱きしめるたっくんの腕に力が籠る。
「―――なんだか分からないけど…二人の間に誤解があったみたいだね。やっぱりΩはαに愛されないとね――――。よかったね…」
それだけ言うとどこか寂しそうな笑顔を残し、先輩はその場から去って行った。
先輩ごめんなさい。そして、今までありがとうございました。
小さくなっていく先輩の後ろ姿に俺は心の中で頭を下げた。
その場に残された俺とたっくん。
たっくんはふーふーと荒い息をしている。
「―――も…ダメだ…。ごめ…朱…」
たっくんはそう言うと俺を抱っこしてどこかへ移動し始めた。
「たっくん…?」
「――黙って…舌噛む、から」
かなり急いでいるのか確かに揺れが激しく舌を噛みそうになる。
俺は黙ってたっくんの胸に顔を埋め大人しく運ばれる事にした。
連れて行かれた場所は保健室だった。中に入りすぐさま鍵をかける音がした。
そのままベッドの上に降ろされる。
訳が分からない。
俺に嘘をついていたたっくん。
だけどさっきは番うって言ってくれた。
ねぇ何を信じたらいい…?たっくんの事信じていい―――?
「ダメ…もう無理…。朱…今ここで俺と番になってくれる、か?」
「―――うん。俺をたっくんの番にして…?」
たっくんが何を考えているかは分からないままだけど、俺には『イエス』以外の答えは持っていなかった。
たっくんと二人だけの香りを作りたいんだ。
たとえ騙されていたとしても俺にはたっくん以外考えられない。
たっくん…好きだよ。
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