砂漠の盗人

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砂漠の盗人

あたしはマホロバ。 金を稼ぐためにいろんな地で仕事をする旅人だ。 金さえ手に入ればやることが善だろうが悪だろうがなんだっていい。 たくさん稼いで、ずっと先の未来まで生きられるように。 熱を帯びる砂漠地帯。晴天に浮かぶ太陽が容赦なくマホロバを照らす。 広大な砂漠で一人途方に暮れる。手元にあるのはガス欠のバイクと、荷物袋の中には圏外の携帯、この状況下では意味を成さない高価な腕輪。 めまいを引き起こし、バイクを引きながらゆっくりと歩いていた足を止め、頭を伏せてバイクのハンドル部分にもたれかかった。 (やばい、意識が朦朧としてきた…。こんなところで死んでたまるかよ…) 遠のく意識の中で再び顔を上げると、少し離れたところに太陽光が反射した水の煌めきが─オアシスがあることに気づく。 (水……水!!) マホロバはバイクと荷物を置いてすぐさまオアシスに駆け寄った。 水は少し濁っていたが、そんなことはもうどうでもよかった。何度も手ですくってバシャバシャと口に運ぶ。 「ああー!!生き返った…」 口元を手でグッと拭って立ち上がり、バイクの場所に戻ろうとしたその時。知らない女が、マホロバのバイクに置かれた荷物袋を覗き込んでから車に乗せて、運転席に座るところが見えた。 (…は!?) マホロバは急いで戻るが、追いつく手前で女がエンジンをかけて発進した。マホロバも負けじと全速力で走り、叫びながら車を追う。 「おいふざけんなてめー!!止まれコラ!!」 距離がついてしまう前に、車のトランク部分に勢いよく飛び乗って後部窓に張り付く。女はハンドルを思いっきり右に左に切ってマホロバを振り落とそうとしたが、その荒い運転が災いとなり、デコボコした地面の窪みにタイヤがはまってしまい、車は言うことを聞かなくなった。 「出てこいや泥棒!」 マホロバが車を叩いて怒鳴ると、女が助手席のドアを開けて顔を見せた。不機嫌そうにサングラスを取る。 「もう…なんなの?あんたのせいで車動かなくなったじゃない。どうしてくれんの?」 「いや…人のもん盗んどいて何言ってんだ?」 「荷物から目を離すのが悪いんでしょ。貴重品にリードでも繋いでおいたら?」 女の悪びれもない開き直った態度に、マホロバは自分よりもろくでもない人間だと確信した。 「ほら、さっさと返せよ」 「んー…」 この期に及んでも何かを考え込む様子にマホロバはますますイラついた。女がニコッと笑んで提案する。 「あんた、バイク動かないみたいだし困ってるんじゃない?この高そうな腕輪くれるなら、首都のジャイカまで乗せてってあげる。どう?」 「その腕輪はあたしの全財産だ、絶対やるもんかよ。自力で歩く」 「え〜、ここから歩いたらジャイカまで3時間はかかるけどぉ…この日差しの中これ以上歩いたらさすがに死んじゃうんじゃない?ま、知らない人だしどーでもいーけどぉ」 女は金色の長い髪を指でくるくるいじる。 「チッ…わかったよ。ただし分けるのは腕輪を売った半分の金額だ。それ以上は渡さないからな」 「半分〜?うーん…ま、いいわよ。んじゃ、車動かすの手伝って」 女がアクセルを踏み、マホロバが後ろから力いっぱい押す。少しして地面の窪みから無事抜け出すことができた。 運転席のドアを閉める女に続き、マホロバは助手席に乗りバタンとドアを閉める。車内は天国のように涼しく、マホロバは危機的状況から抜け出せたことに一息ついた。 「…で、どういう状況?なんで砂漠のど真ん中で死にそうになってんの?」 女が車を走らせながらマホロバに問いかける。マホロバは話そうか少し迷ったが、この女は警察に通報するような道徳心を持つ人間ではないだろうと判断し、正直に話す。 「この腕輪はなんの思い入れもない、金持ち人間から盗んだ物だ。そんで警察に捕まりそうになって、砂漠ルートで逃げる途中にバイクがガス欠。ちょっと目を離した隙に泥棒野郎が登場ってわけだ」 「あんたも泥棒じゃん、人のこと言えなっ」 「まあでも、してきたのは悪いことばかりじゃないさ。放浪しながら同じくらい善良な仕事もしてきたけどな、報酬のために」 「ふーん。別にあんたが殺し屋だろうがテロリストだろうが驚かないけど」 「てか、あんたこそ何なんだよ」 「ふっ。あたしはねぇ。ちょっとやばいことしてる組織に身を置いて生活してたんだけど、ずっと抜け出すことを考えててね。タイミングを見計らって、車飛ばして逃げて来たの。んで無一文のホームレス状態だから、お金が必要なわけよ」 「ふーん…見事にカモられたわ。あたしも今この腕輪しか頼みがないから、目を付けるのはこれで最後にしてくれ」 「あっはは。ジャイカに着いたらその腕輪、ちゃんと質屋で換金して分けてね」 「今日が最初で最後の付き合いだと思うけど、念の為名前聞いとこうか。あたしはマホロバ」 「ミカヅキよ。まー、あんたみたいなろくでもない人間に覚えられてると嫌だから、すぐ忘れてくれていいわ」 景色と空の色がだんだんと変わってゆき、逃亡する二人を乗せる車は首都ジャイカに近づいていった。
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