大佐と姫

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耳元にすり寄ってくる頬にくすぐったさを覚えると、腰を砕く美声が鼓膜を揺らした。 「愛しているよ、せっちゃん」 「っく」 急に現実に引き戻された気がした。 セツコラーナ姫だったら軽く愛しているよと言い返せるのに、せっちゃんとなると生々しいというか、リアルすぎるというか。いや、現実で間違いないのだけど、私も愛してます高崎さん、は言える気がしない。 恥ずかしい! 「僕の恋人になってくれるね」 「は、はい、そ、それはその、お約束した通り、はい、な、なりますけど」 吃りながら言うと、またどこからか「設定が違うぞ」と咎められる。監督(お祖父さん)はまだ撮影続行中だったのか。 「なりますわっ!なるに決まってるじゃありませんかっ!夢にまでみた瞬間でございっ」 シンドラー大佐の唇が私の口を塞いでしまった。 初めての感触にお喋り好きのセツコラーナ姫も黙ってしまう。まあ声が出る状況でもないので当たり前なのだが。それにしたって、なんて甘いのだろう。 触れるだけのキスはやがて角度を変え、味わうように啄むように。 心臓と神経がえらいこっちゃの最上級形でお送りされる中、私はその甘さにうっとりもしていた。 だが苦しい。こういう時、息継ぎっていつするんだろう。 ずっと息を止めてたので目の前がチカチカしてきたが、倒れる前に唇は離れた。 上手く息継ぎをしてたのか、高崎さんは息ひとつ乱れていない。美しい微笑ではぁはぁと荒れた息遣いをする私を見つめてくるのが恥ずかしすぎて、逃げた先は高崎さんの胸の中だった。
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