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まわしていた洗濯が完了音を鳴らした。
今日は春らしい気持ちのいい日で、洗濯日和。
申し訳程度に備えられた狭いベランダに洗濯物を干そうと歩き出す。
ちょうど過去に大ヒットした映画のサウンドトラックを流していたため、体をリズムに合わせて揺らしつつ口ずさむ。
ベランダのガラス戸を豪快な手の動きで引いて「扉あけ、てぇ~!」と歌いながら空を仰ぎ見た。
続く歌詞を歌い出そうとして、次の瞬間、視界に入った光景に私は固まってしまった。
隣の一軒家の二階の窓は、うちのベランダの真正面。
いつもそこはカーテンが閉まっていて、見ることも見られたこともなかった。
なのに、今日はしっかりカーテンも窓も開いていて、住人までそこにいた。空でも見ながらお茶を飲んでいたようで、突然ミュージカル女優宛ら現れた私を見て目を丸くしている。
神の悪戯だと言うのなら、なんということをしてくれたんだ。
そこにいたのは会社の人間だった。
ギネス記録並みの速さでガラス戸とカーテンを閉めた後、私はその場に突っ伏し、「殺してくれっ...、殺してくれっ...」と拳を床に叩きつけていた。
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