嘘をつける薬

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 嘘が簡単につける薬を手に入れた。(わたる)は嘘が苦手だ。塾を行きたくないからいつも仮病を使おうと思っていたのだが無理だった。この薬を飲めば簡単に休む言い訳が思いつく。薬は同じクラスの真帆(まほ)がくれた。渉は真帆が気が強くて苦手だったがこの時ばかりはいい子だなと感心した。  今日は部活が終わってから塾だ。六時から八時まで。渉は高校二年生だから大学に行くためには行かなくてはいけないのだが、塾は意地悪な男の子がリーダーのグループがあって、渉はそこに入れないでいる。渉は真帆に三十分くらいで効きはじめると聞いていたので学校帰りの途中でミネラルウォーターを買って飲むことにした。薬は錠剤だ。  陸上部のユニフォームから制服に着替える。今は四月のはじめだからまだ寒いのでブレザーの下は薄手のセーターを着ている。着替え終わると部室を出た。校庭の桜の花が散って風で地面に円を描いている。  校門を出て通学路を歩いた。駅までは十分くらいだ。同じ陸上部の春哉(はるや)が後ろから肩を叩いた。 「渉、今日の夜、電話してもいいか?」 「ああ、いいよ。いつも寝るのは十一時だから」 「じゃあ、十時に掛けるよ。今日は塾だろ」  渉は曖昧に頷いた。嘘をつける薬のことは真帆から誰にも言うなと念を押されている。真帆は入ったらいけないお父さんの仕事部屋で薬を見つけたと言った。説明書きを読んでポケットに入れたらしい。真帆のお父さんは製薬会社で働いている。嘘をつける仕組みは分からないが神経に関係するんだろう。
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