嘘をつける薬

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 渉は通学路の途中にあるコンビニに入った。春哉は手をあげて駅の方角へ歩く。茶色い髪が風で乱れている。渉の学校は校則が緩い。  ミネラルウォーターとチョコレートを持ってレジへ行く。薬を飲んだら電車に乗って着いた塾のある駅で事務員に電話しよう。代わりに駅ビルで参考書を買って勉強すれば大丈夫だ。あんなストレスの溜まる塾なんか自分に必要ない。  コンビニを出てすぐに薬を三錠飲んだ。神経に変化は起きない。三十分待とう。すらすらと塾を休む言い訳が言えるようになるだろう。  改札を抜けてホームへ行った。階段から離れたところの椅子に違う学校の制服を着た女の子が腰掛けている。小さな顔に垂れた大きな目、薄い桜色の唇。渉は胸がドクンとした。椅子に座らず立って女の子の様子を窺った。スマホを見ている。何か話しかける理由が思いつかないだろうか。そう考えていると電車がホームに入って来た。渉は電車に乗ってつり革に掴まった。女の子は空いている椅子に座った。電車は千葉県を走る。ところどころに菜の花や葉桜が見える。ここは都内に近い千葉だがそれでも田舎だ。ガタンガタンと乗客は揺られる。  デパートや高層マンションが建ち並ぶ駅に着いた。ここが塾のある駅だ。降りて電話をしなければいけないのだが渉は女の子が気になって仕方ない。可愛すぎるしタイプだ。ドアが閉まったがどうせ休むのだし関係ない。塾のある二駅先が家のある駅だが、降りずに空いた女の子の隣に座った。
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