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かと思いきや、スプーンは皿に取り残したままで、深見は天を仰ぎながら目頭を押さえている。
「あれ……。辛かったかなぁ……? ちゃんと箱の裏に書いてある通りにつくったんだけど」
深見のオーバーなリアクションに気圧されていたが、汐ははっと素に戻りすぐさまルーを掬って味見をする。
味は何ら変わらない。深見が帰ってくるまでに食べたのと同じ味だ。
「あんまりお口に合わなかったかなぁ。ごめんね誠吾さん。これは僕が食べるから……」
「いや、違うんだ。あまりにも美味し過ぎて涙が」
「へっ? なんだぁ……びっくりしちゃった。紛らわしいよっ。だよねー。一皿一万円くらいするからね、そのカレー。お店で一番いいお肉買っちゃった」
自炊の腕を高級食材でカバーした甲斐があった。深見に涙ぐまれるほど喜んでもらえて、汐も嬉しくなる。
深見以外のDomには芽生えなかった、誰かに尽くしたいという気持ち──汐の心の中は甘酸っぱい初恋のような爽やかな気分だった。
泣くほどの味かなぁ、と汐は少し疑心暗鬼になったものの、先日汐も嬉しい言葉の数々で泣かされたのでおあいこだと思えば。
「たくさん食べてお仕事頑張ってね。……次につくるときは、ちゃんと節約します。あ、でも。愛情は節約しないから」
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