愛されSubは尽くしたい

11/25
前へ
/203ページ
次へ
ご機嫌を取るためではなくて、本当に羨ましそうに言うものだから、汐は思わずはにかんでしまう。 こんな日に出会って最悪とさえ思っていたが、蟠りが解けたようで今は晴れ晴れとした気分だ。 「ここら辺でバイトって言ってたけど、今日なんじゃないの? 時間は大丈夫?」 「うん……ちょっと遅刻かも。やばい」 「も、もう行きなよ。僕に構わないでいいから!」 石井は高いヒールをカツカツと鳴らして、走っていく。 汐のいる後ろをちょこちょこ気にしているようで、転ばないか心配になる。 道を曲がるまで見送った後、深見の待っている場所へ戻った。 格好いい深見が誰かに口説かれていないかと、内心ハラハラしていた。 けれど、集めているのは視線だけだった。 それにも深見への好意が孕んでいる気がして、汐は「誠吾さんっ」と呼びかけながら走り寄った。 「あっ!」 「危ない!」 歩道の段差を見過ごしていて、汐は前へ突っかかってしまった。 手のひらと膝が地面に着く前に、深見の胸へ抱き留められていた。 「待ちくたびれてないから、ゆっくり来てくれ」 「ごめんなさい……」 素直に謝る汐の頭を一撫でし、深見は汐の手を取った。 ついさっき、石井の走る姿に「転ぶなよ」と念を飛ばしていただけに、汐を襲う恥ずかしさはとてつもない。
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1253人が本棚に入れています
本棚に追加