プロローグ

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「天才子役だなんて持て囃されて、天狗になっているのよ。撮影でも、そんな才能があるなんて感じなかった。あれじゃあ、すぐに埋もれるわね。早くいなくなればいいのに」 ──そんなの、自分が一番分かってる。 テイクの回数が増える度に、演技の仕事は向いてないな、と現実を突きつけられる。 元々は赤ちゃんモデルの被写体としてのデビューだったのが、運やタイミングが合わさり、汐の地位をここまで押し上げたのだ。 そうやって陰口を叩かれるのは一度や二度ではないから、今さら傷つかない。 それは天使 汐への風評なのだから。 「……は、はっ……」 そろそろ戻らなきゃ、と身体を動かそうとするも、上手く力が入らない。 息が思うように吸えないのだ。 『早くいなくなればいいのに』 いつもはなんてことのない、叩きつけられた台詞が、鎖のように汐の胸をぎりぎりと締め上げる。 最初は、口元に薄いガーゼが覆われている感覚だったものが、指で塞がれて。 さらに海に突き落とされて周りに酸素がなくなる。 あまりの苦しさに、汐は小さな空間でのたうち回りながら、無意識に壁や床を引っ掻いた。 ──助けて。助けて……お父さんっ!
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