1254人が本棚に入れています
本棚に追加
「天才子役だなんて持て囃されて、天狗になっているのよ。撮影でも、そんな才能があるなんて感じなかった。あれじゃあ、すぐに埋もれるわね。早くいなくなればいいのに」
──そんなの、自分が一番分かってる。
テイクの回数が増える度に、演技の仕事は向いてないな、と現実を突きつけられる。
元々は赤ちゃんモデルの被写体としてのデビューだったのが、運やタイミングが合わさり、汐の地位をここまで押し上げたのだ。
そうやって陰口を叩かれるのは一度や二度ではないから、今さら傷つかない。
それは天使 汐への風評なのだから。
「……は、はっ……」
そろそろ戻らなきゃ、と身体を動かそうとするも、上手く力が入らない。
息が思うように吸えないのだ。
『早くいなくなればいいのに』
いつもはなんてことのない、叩きつけられた台詞が、鎖のように汐の胸をぎりぎりと締め上げる。
最初は、口元に薄いガーゼが覆われている感覚だったものが、指で塞がれて。
さらに海に突き落とされて周りに酸素がなくなる。
あまりの苦しさに、汐は小さな空間でのたうち回りながら、無意識に壁や床を引っ掻いた。
──助けて。助けて……お父さんっ!
最初のコメントを投稿しよう!