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「しお……汐っ! いたら返事をして! おねがい、お願いよ……っ」
「あ、おかあさ……」
一方的に母親の声が届くだけで、胸を圧迫されている汐は返事が出来ない。
青年が咄嗟に汐を抱き寄せたおかげで、ぺしゃんこにならずに無傷だった。
「私が……汐をしっかり見ていなかったから! 汐までいなくなったら、私……。あの人に何て言えばいいか分からない!」
「紗那さん、汐くんはきっと大丈夫だよ。事故の音を怖がって、どこかに隠れているのかもしれない。汐くんはかくれんぼが得意だからね。だから大丈夫」
──おかあさん、泣いてる……。
走っていきたい。抱き締められたい。
焦る気持ちとは裏腹に、汐の身体は不自由で指一本すらまともに動かせない。
「おい、人がいるぞ! 男と……小さな子供だ!」
悲鳴とともに、紗那はその場で泣き崩れた。
助け出された汐はしっかりとした腕に抱きかかえられ、救護用の白い担架に乗せられた。
「汐おぉ……。ごめんね。お母さん、ちゃんと汐のこと気にかけてあげればっ。汐……汐っ。お母さんを一人にしないで」
「おか……さん。ごめん、ごめんなさい。しお、もういなくなったりしないから」
指切りのために小指を立てると、紗那は悲痛そうな顔をさらに歪ませた。
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