プロローグ

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貝殻のように薄く小さな爪は、ぶらんと揺れて皮一枚で繋がっている。 痛ましい状態の手を、紗那が優しく包み込むように握ると、汐は安堵して意識を手放してしまった。 ……────。 夢を見ていた。お父さんとお母さんと、汐の夢。 お父さんは汐が生まれるよりもずっと前から、身体が弱かったから、皆のように遊園地や動物園に連れて行ってもらえなかった。 近場の公園が精一杯の外出──それでも、家族だけの時間は、堪らなく幸せだった。 「ん、おとうさん……」 目から自然に流れた熱い雫は、頬を覆うガーゼに吸い取られた。 「目が覚めたんだね。汐くん、お父さんのことは分かる?」 汐は返事をせずに、小さく頷く。 ベッドの上の身体は重く、動かない。 見るも無惨だった手指の先は、白い包帯が幾重にも巻かれていた。 病室の扉が開き、そちらを向くと医師らしき男性と紗那が入ってきた。 ぼんやり開けた目で見つめると、紗那は散々泣き腫らした顔にくしゃっと皺をつくった。 「しお、汐……! 本当によかった……っ。どこか痛くない?」 「うん、うん……。だい、じょうぶ」 病院で処置を受けて、包帯だらけの汐は気丈に笑ってみせる。
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