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【1】出先と森
先生が「出かけるぞ」と言ったら、僕は大人しく従わなければならない。
ずっと街の中では息が詰まるとか、良質な自然を味わわないと気が滅入るとか、なんだかんだと言っているけれど。その本心は「遊びたい」一択だ。
「前に旅行の計画とか立てただろ。あの時はおじゃんになったけど、まぁ事件解決のご褒美みたいなものだ。たまにはいいじゃないか」
「旅費は先生が負担ですよね? 」
「ライカ君、そこは割り勘に決まってるだろ。私が三割、君が七割」
全くもって不公平である。
「あの、あたしも払いますよ? ご一緒させて貰ってますし……」
「アンジュは気にしなくて大丈夫さ。いつも世話になってるからね」
確かに食事場として利用しているけれど、それなら編集者である僕だって、同等くらいの扱いを受けてもいい筈だ。
「それで先生、今回はどこへ行くんですか。流れのままに汽車に乗っちゃいましたけど、僕達行き先を聞いていないんですが」
「心配するな。とっても楽しい所さ」
言葉からして不穏しか感じない。
「私にとっては懐かしい場所だ。緑がいっぱいで、風が心地いい……」
「私の故郷といってもいいね」
汽車は煙を吐きながら、ゆっくりと車輪を回し続ける。
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