【1】出先と森

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 月が照らす森の中。ライカを置いていった二人は、さく、さくと草を踏み分けながら歩いていた。  先を行くのはラピス。その少し後ろにアンジュ。二人の距離は近くも遠くもならず、一定の幅を保ったまま進んでいた。 「一気に走ると疲れるね。アンジュ、大丈夫かい」 「全然平気ですよ? ライカも連れてくれば良かったですかね」  アンジュは宿の方を振り返って呟く。 「あの体力じゃ着いてこれないよ。昼間から振りまわしちゃったし、ライカ君は少し休ませてあげよう……それに彼がいると、色々話にくいこともある」  ラピスはそんなアンジュを見て、丸みを帯びた岩に腰掛けた。   「まあ座りなよ。夜の森は静かだ。盗み聞きする不埒な奴も、秘密をバラす奴もいない。秘密の女子会と洒落込もうじゃないか」 「……? 」  アンジュはきょとんとした表情のまま、素直にラピスの隣に座った。 「さてアンジュ。君はライカ君のことをどう思っているのかな? 」  ラピスの目が悪戯っぽく光る。 「勿論私とライカ君はよく一緒にいるけどね。あれは相思相愛だからそうしている訳じゃないんだ。ライカ君は私が締め切りを守るように付き纏っているし、私は狼人間(ルー・ガルー)を倒す為に彼と協力している。あくまでビジネスライクな関係なのさ」 「はぁ」 「それに対して君がモヤモヤするのはよく分かる。私も仕事柄仕方ないとは言え、君には申し訳なく思っている。何せ幼馴染で料理も上手い、運動も出来て勇気もある。実に理想的だ。私なんて君には到底及ばないよ」 「何言ってるんですか」 「だから君がライカ君にアタックしないなら、どうか私のことは気にしないで欲しい。なんならこの旅行を通して、君達の関係がより進展すればと……」  ここでアンジュは、やっとラピスの意図を理解した。 「先生。あたしはライカのこと、別に何とも思ってませんけど」 「……え、そうだったのかい」  ラピスは拍子抜けしたかのように瞬くが、即座に首を振って持ち直した。 「それはそうと、私は感謝してるんだ。ロシャウドの屋敷が燃えた時、助けてくれたのは君だろう? 私だけじゃない。君のお陰でライカ君や編集長、ハンス警部とヴァルツ号も無事だった。本当によくやってくれたと思うよ」 「え、えと、そんな……」  アンジュは照れ臭そうに笑った。 「それで君に興味が湧いてね。色々と知りたいと思ったんだ」  ラピスもにこやかに尋ねる。 「例えばそうだな。君は屋敷でライカ君に何をしたのか、とか」  アンジュの表情が、さっと変わった。
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