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月が照らす森の中。ライカを置いていった二人は、さく、さくと草を踏み分けながら歩いていた。
先を行くのはラピス。その少し後ろにアンジュ。二人の距離は近くも遠くもならず、一定の幅を保ったまま進んでいた。
「一気に走ると疲れるね。アンジュ、大丈夫かい」
「全然平気ですよ? ライカも連れてくれば良かったですかね」
アンジュは宿の方を振り返って呟く。
「あの体力じゃ着いてこれないよ。昼間から振りまわしちゃったし、ライカ君は少し休ませてあげよう……それに彼がいると、色々話にくいこともある」
ラピスはそんなアンジュを見て、丸みを帯びた岩に腰掛けた。
「まあ座りなよ。夜の森は静かだ。盗み聞きする不埒な奴も、秘密をバラす奴もいない。秘密の女子会と洒落込もうじゃないか」
「……? 」
アンジュはきょとんとした表情のまま、素直にラピスの隣に座った。
「さてアンジュ。君はライカ君のことをどう思っているのかな? 」
ラピスの目が悪戯っぽく光る。
「勿論私とライカ君はよく一緒にいるけどね。あれは相思相愛だからそうしている訳じゃないんだ。ライカ君は私が締め切りを守るように付き纏っているし、私は狼人間を倒す為に彼と協力している。あくまでビジネスライクな関係なのさ」
「はぁ」
「それに対して君がモヤモヤするのはよく分かる。私も仕事柄仕方ないとは言え、君には申し訳なく思っている。何せ幼馴染で料理も上手い、運動も出来て勇気もある。実に理想的だ。私なんて君には到底及ばないよ」
「何言ってるんですか」
「だから君がライカ君にアタックしないなら、どうか私のことは気にしないで欲しい。なんならこの旅行を通して、君達の関係がより進展すればと……」
ここでアンジュは、やっとラピスの意図を理解した。
「先生。あたしはライカのこと、別に何とも思ってませんけど」
「……え、そうだったのかい」
ラピスは拍子抜けしたかのように瞬くが、即座に首を振って持ち直した。
「それはそうと、私は感謝してるんだ。ロシャウドの屋敷が燃えた時、助けてくれたのは君だろう? 私だけじゃない。君のお陰でライカ君や編集長、ハンス警部とヴァルツ号も無事だった。本当によくやってくれたと思うよ」
「え、えと、そんな……」
アンジュは照れ臭そうに笑った。
「それで君に興味が湧いてね。色々と知りたいと思ったんだ」
ラピスもにこやかに尋ねる。
「例えばそうだな。君は屋敷でライカ君に何をしたのか、とか」
アンジュの表情が、さっと変わった。
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