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「レディの扱いがなってないなぁ。礼儀ってものを教えてあげようか? 」
ラピスはアンジュの前に立ちはだかると、枝を見上げて尋ねた。
「お前こそ何をしている。夜の森でコソコソ隠れて」
「秘密の女子会さ。男子禁制だってのに、君が入ってくるから中止だよ」
そう言いながらも、ラピスの瞳は真っ直ぐに男を見据えていた。
「それはそうと、名前くらい名乗ったらどうだい。君は私のことを知っているのに、私は知らないってのは気持ち悪いなぁ……もしかしてファンかい? 」
その問いに対して、男は無言で枝から飛び降りた。
がさりと音を立て、男の足元の木の葉が飛び散る。ラピスは男から目を逸らさずに、しかしアンジュから離れすぎないように顔と体を動かした。
「獲物に情報を与える必要はない。さっさと捕まりな」
「荒っぽい男は嫌だなぁ。ライカ君の方が数倍マシだ」
この会話で、ラピスは目の前の男が敵であることを確信したようだった。
今夜は満月には程遠いが、普通のゴロツキ程度なら撃退できるだろう。しかしそれは、相手が「普通の人間」だった場合。ラピスの鋭い嗅覚は、目前の相手がただ者ではないことを見抜いていた。
「アンジュ。私が食い止めている間に逃げろ」
「いいんですか? あたしのこと、疑ってるんじゃ……」
戸惑うアンジュに対し、ラピスは顔を少しだけ向けて言った。
「君は命の恩人だ。例え隠し事があっても、私を助けたことに目的があったとしても、君のお陰で私が生きている。だから今度は、私が君を守る番だ」
男の足が一歩近づく。
「……それに可愛い子が、悪い男に食われるのは嫌だからね」
ラピスも片足を前に出す。
「……待っててください。ライカを呼んできます」
「寝てたらぶん殴って起こしていいぞ。私が許可する」
そしてアンジュが駆け出したのと同時に。
まだ細い月の下で、二匹の獣が地を蹴った。
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