17人が本棚に入れています
本棚に追加
けたたましい獣の声が響いたかと思うと、唐突に男の背中が切り裂かれた。
続いて足に無数の影が纏わり付く。男の服に無数の牙が突き刺さり、柔らかな布を引き裂いて肉へと食い込んだ。
赤黒い血が吹き出し、森の地面に鉄の匂いが広がる。男は迫り来る影を振り払いながら、後ろに向かって大きく飛び退いた。
「なんだ、こいつら……⁉︎ 」
獣の数は五匹。森の夜闇に紛れ、金色の瞳がちらちらと動く。
「狼人間か? いや、これは……」
しかし男の言葉が続くことはなかった。
再び獣達が走り出し、男の周囲を取り囲む。低い唸り声が響き、いつ襲い掛かろうかと見定めるようにゆったり歩く……空気が冷たく張り詰める。
「困ったな。君達が来るとは……」
ラピスが短く呟く。
「ライカ君を呼ぶんじゃなかった。色々とまずい」
そう言いながら、男の様子をちらと見る。
男はにじり寄る獣達に、流石に不利を感じ取ったのだろうか。憎たらしそうにラピスを一度睨むと、大きく上に跳躍して闇の中へと消えていった。
「……はぁ。『群れ』か」
ラピスは少しの間、男が不意打ちしてこないか警戒していたが、やがてその心配がないことを感じると、短く息を吐いて力を抜いた。そして周囲をもう一度見渡すと、未だに唸り声を上げる獣達を置き去りにし、森の中へ姿を消した。
フゥゥゥゥゥ……
ウゥゥゥゥゥ……
後には瞳を爛々と輝かせた、四つ足の獣達が残された。
最初のコメントを投稿しよう!