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先生と僕、ライカ・フィクトは、作家と担当編集という関係だ。
いや。それだけで済めば良かったのだが、運命という奴はどうも人を困らせるのが好きらしい。僕の職場は小さな出版社。ところが満月の夜になると話は別。街で暴れる怪物「狼人間」を倒す集団に早変わり。
人間の血肉を喰らう獣を、銀の弾丸だの、楔の埋め込まれたライフルだので追い回して仕留める。この出版社は、そんな物騒な人間の集まりだったのだ。
そして先生。大人気作家、ラピス・ヌックス。
巧みな自然描写が人気を博し、新作は一時間と待たずに完売。弱小出版社であるこの会社がなんとかやっていけるのも、彼女の腕があってこそ。
しかしその正体は狼人間。満月の光を浴びると姿が変わり、驚異的な身体能力を持つようになる。普通の狼人間は人間を捕食するのに、何故か先生だけは人を襲うことはない……最も「プライベートは秘密にしたい」と、詳しい理由は教えて貰えていないけれど。
「さぁ着いたぞ。駅弁の味が恋しいが、足を進めないとね」
先生はぐっと伸びをすると、汽車からすたすたと降りていく。
「ねえライカ。先生、随分と身軽だけど……荷物は? 」
心配そうな顔で問いかけるのは、アンジュ・ヨーテ。
行きつけの酒場の看板娘にして、僕の幼馴染。
「『重いものをヒィヒィ担ぐのは嫌いだ』って、殆ど置いてきたんだって」
「え、この旅行日帰りじゃないんでしょ⁉︎ 着替えとかどうするのよ⁉︎ 」
「分かりっこないだろ。二泊三日を手ぶらで過ごしたことなんてないし」
きっと僕達が先生の世話をすることになるんだろうなぁ。
僕という男一人だと色々不便だから、アンジュも呼んだんだろうなぁ。
そんな疑念を抱きながら、僕達は先生の後をとぼとぼ追うのだった。
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