17人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
僕達が降りたのは、ラシェラ山地の南端にある駅だった。
以前は龍が出ただのなんだのと騒いでいたこの地域も、最近はすっかり大人しくなったものだ。最も一部の集落では、まだ古い信仰が根強いようだけど。
「それで先生、宿はどこなんですか」
「焦るんじゃないよ。のんびり行こうじゃないか」
それは結構だけど、僕達の荷物を置いてからでもいいじゃないか。
「大して重くないでしょ。びーびー言わないの」
「そうだぞライカ君。小さなことでうじうじする男は嫌われるぞ」
恐らく今後の僕の不満は、殆どこれで片付けられるのだろう。
ラシェラ山地は僕達の住む街からはかなり離れており、汽車を使っても五時間はかかる。特にこの辺りは交通の便も悪く、一日に一回しか汽車が来ない。それ故街の人々は、滅多なことではここに来ない……僕も初めての場所だ。
「さぁ宿まで歩こうじゃないか。あそこの遊歩道を通ると近道なんだ」
よかった。ちゃんと宿には行くようだ。
「早くても一時間半くらいで着くよ」
地味に遠い。
狼人間と戦うよりはよっぽど楽だけど、それとは別の意味で辛い。
「送迎車とか無いんですか」
「つまらない事を言うんじゃないよ。己の足で歩くのが面白いんだ」
そう言って、先生はずんずんと先へ行く。
「一時間半くらい余裕でしょ。なんなら全力疾走しない? 」
「アンジュの体力がどうかしてるんだよ」
僕の知り合いの女性陣は強い。
最初のコメントを投稿しよう!