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先へ先へと進むアンジュ。その後を追う僕。
急な坂道も濡れた石の上も、アンジュはすいすいと進んでいく。一歩進むだけで蹴つまずきそうになる僕とは大違いだ。
「なんでそんな慣れてるの? はぁ、舗装されてない道って歩きにくい……」
「あんな地面の何がいいのよ。硬くって平くって面白くない」
僕達の街の人間は、自然というものをあまり知らない。
その理由は「興味がない」というのが大半だろう。綺麗に整備された便利な街があるのに、どうして未開拓の不便な場所に行かなければならないのか。なぜ危険な動物が住む領域に行く必要があるのか。そう思う人が圧倒的に多いのだ。
そう考えると、この環境にすぐ適応しているアンジュは、特異な存在と言ってもいいだろう。彼女とは幼い頃から一緒に過ごしていたけれど、まだまだ知らないことも多いんだな。
「あ、ほらほら見て‼︎ 川だ‼︎ 」
水のせせらぎが聞こえる。アンジュの指の先を見ると、緑の隙間から小さな川が顔を見せていた。水の流れは穏やかで、人一人が丁度寝そべることができるくらい……それくらいの、細やかで優しい川だった。
「魚とかいるかな? 捕まえて夕飯のおかずにしない? 」
「魚ったってどうするのさ。釣り竿とか持ってないよ」
「あんた本当に抜けてるわね。こうすりゃいいじゃない」
そう言って、アンジュは靴を脱いで川に入っていった。
「下手な道具に頼るんじゃないの。あたし達には体があるんだから」
息を潜め、水面をじっと見つめるアンジュ。
その目は普段とは違い、まるで獲物を睨む獣のような……そうだ。どこか狼人間と戦う時の先生のような面影があった。
「……はっ‼︎ 」
一閃。水を鋭い手刀が切り裂く。
同時に水面から飛び出してくる何か。勢いよく吹き飛んだ「それ」は、べちゃりと音を立てて僕の顔に直撃。目の前が暗くなり、滑りのある物体が弾むように落ちる。
「あ、ごめん……獲れたから許して? 」
アンジュがあははと笑った。
僕の足元には、びちびち跳ねる魚が転がっていた。
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