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「あぁくそっ‼︎ 獲物の癖にどこ行きやがったんだ⁉︎ 」
「皆もまだみたい……標的、意外と賢い……? 」
摩天楼の屋上で、二つの影が立ち尽くしていた。
一人は刺々しい銀髪の男。もう一人は短い赤髪の少女。月のような白さを放つローブを見に纏い、その顔は深く被ったフードで隠れていた。
「恐れを為して逃げ出したか、或いはどこかに隠れているか……はん。ひと暴れして騒ぎを起こせば、自ずと向こうから出てくるだろうな」
「いつもそれ……だからずっと今の地位……」
「咬み殺されたいのか」
二人の間に流れる空気は、お世辞にも穏やかとは言えなかった。
一切目を合わせることすらなく、ただ淡々と街を見渡す二人。その瞳は人ならざる黄金色に輝き、昼の日差しの中でもはっきりと光を放っている。
「……匂う」
すると赤髪の少女が、鼻をひくひく動かした。
「鉄と石炭と煙……そこにあいつの匂いが混ざってる……」
「そうか。なら俺が仕留めて来る」
銀髪の男はそう言うと、ローブをばさりと靡かせた。
「一人で行くの……? 大丈夫……? 」
「馬鹿にするな。あんな雑種一匹に、どうして『群れ』全員で動かなきゃいけないんだか……ツキ様の考えは俺には分からん」
男は鬱憤を吐き出すかのように溜息をして、ビルの端に立った。
一歩、いや半歩進めば落下するであろう位置。しかし男に一切の戸惑いはなく、そうすることが「当たり前」かのように、ぐっと腰を屈める。
「邪魔するなよ。セチュラ」
「言われなくても。メネド……」
メネドと呼ばれた男は、ビルの端を思い切り蹴り飛ばした。
並び立つ摩天楼の間を軽やかに跳び、向かう方向はただ一つ……ラシェラ行きの汽車が使う線路に沿って、脇目も降らずに駆け抜けていく。
「……一人別行動。報告しなきゃ」
そしてセチュラと呼ばれた少女の姿も、既にそこには無かった。
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