【1】出先と森

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「で、一匹しか獲れなかったと」  山の向こうに太陽が沈むころ、先生は全身草まみれになって帰ってきた。  最初は事件にでも巻き込まれたのかと思ったけれど、服や顔が多少汚れている程度で傷はなかった。先生も穏やかな表情だし、心配は必要なさそうだ。 「人数分は捕まえようと思ったんですけど、ライカが役に立たなくて……」 「悪かったね。慣れてなくて」  アンジュに出来たなら僕にも。そう思って川に入ったのが間違いだった。  切り身か調理済みしか知らない僕にとって、自らの意思で動く魚を捕まえるのは相当な困難だった。掴めば滑って落とす。追いかければ逃げられる。あたふたしているうちに、ものの数分で魚は皆どこかに行ってしまった。 「まぁいいさ。折角だから頂こう。アンジュ、三つに切り分けてくれ」 「先生はどこがいいですか? 」 「私は右端でいいよ。アンジュは左端、ライカ君は真ん中」  ちょっと。僕が真ん中は申し訳ないですよ。  そう言おうと思った時、目の前に映ったのは三枚おろしにされた魚。 「ほら。君の分だ」 「あんたが一番何もしてないんだから、それで我慢しなさいよ」  渡されたのは綺麗に切り抜かれた背骨。中落ちもすっかり取られている。   「背骨って食べる場所なんですか」 「私の家族はいつも食べていたぞ。硬いし刺さると痛いけど」 「骨くらい齧れるでしょ。さ、あたし達も食べましょうか」  宿の夕食が付いていて幸いだった。  野宿でもするんだったら、僕は数日骨だけで暮らすことになりそうだから。
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