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女は突然の来訪者を無視し、家の中で薬剤の調合の作業に戻った。
その作業は食事の暇もなく続けられたため、女が犬のことを思い出したのは日が沈んだときだった。
そういえば変なのが来ていたな、流石にもういないだろう――と女は何の気もなしに、薄地のドレスの上から厚手のストールを巻いて外に出てみた。
「は。まだいたの?」
犬はまだ熱を保っている砂に身体を押し当てるような体勢で戸の近くにいた。女が出てきたことに気付いて、顔と尻尾がピクリと反応する。
「あの、私はアマカいう者です。初めまして!」
「名乗れと言ったかしら? そもそもアンタ、どこから来たの?」
「え。ええと、ここへはラクダさんの背に乗せてもらいました」
「ならそいつに乗って帰りなさい。はい、回れ右、ターンライト!」
「それが、帰りについては話していなかったので、ラクダさんはどこかに行っちゃいました……」
「……馬鹿なの?」
行動力はあるが無計画だったのか、それともここに住める算段だったのか。どちらにしろ、このアマカと名乗る犬は、やや向こう見ずな性格のようだ。
「それで、一度私の話を聞いてくれると嬉しいんですけど!」
不信感で顔を歪めた女などお構いなしに、犬は尻尾を振りながら女の足元に身体を押し付ける。
「……戸口でミイラになられちゃ困るわ。喋る犬も珍しいし、入って。話くらいは聞いてあげる」
「わあ、ありがとうございます!」
「こら、埃は身体からしっかり落としなさい!」
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