犯人取り逃がし

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OICに帰ってきた中童子を課長は満面の笑みで迎えた。 「ねねちゃん、早速お手柄だったみたいやん。」 「ありがとうございます。」 「ひったくりっちゅうちゃんとした理由も出来て、ホンマ後処理楽になったわ。」 「それ!それ聞きたいんです、何でこんな事してるんですか?」 褒められて一瞬喜びでモヤモヤを忘れたがすぐに思い出して課長を問い詰める中童子、言われた課長は意図が掴めてなかった。 「ん?どう言う事?」 「なんでこんな仕事してるんですか!」 「こんな仕事って?」 「さっきネットニュース見たんですけど、犯人は3人一緒に捕まったってままです。会見の準備とかもしてないみたいですし、これじゃ隠蔽ですよ?」 中童子の言葉にOICに居た皆がポカンとしていた、殿だけはそんな中童子の言葉を聞いてなかったかの様に書類の作成をしていた。 「あんた何言ってんの?それがここの仕事だから。」 「ここの仕事?こんな不正みたいなことが?」 「すげーねねちゃんストレートに言うな笑。」 「何何?ここの仕事分からんと来たん?」 「まぁ来ていきなり現場要請やったから説明はしとらんかった。」 「でもここの名前見りゃ分かるやろ?」 「名前ってOICですよね?」 「そうや。大阪府警、隠蔽、チーム、略してOIC。」 イケメンとはまた別の男性が部屋に掲げてあるOICの説明をした、確かにOICの各文字の下に小さくだが【saka npei hi-mu】と書いてある。 「まっ、OICなんて表向き誤魔化す為の名前みたいなもんっしょ。」 「誤魔化す?」 「そりゃー、堂々と隠蔽してますって部署他の府県に言えないからな。」 「実際には隠蔽特別班で府警では呼ばれとる。」 「上の人達横文字とか弱いかんなー。」 その説明にOICの文字を見ながら唖然としてしまっている中童子を他所に他のメンバーは、「そもそもなんで最後だけチームって英語やねん。」「ってチームって綴りTeamだからホントはTやからね。」などとチーム名についていちゃもんを付けていた。 その言葉通り上層部が横文字が苦手なのが分かる命名だ。 すっかり熱気を抜かれた中童子だったが、それでも食い下がって抵抗を見せる。 「こんな所があるって事は前から隠蔽してたってことですか?」 「まぁそうなるね。」 「そんなのダメじゃないですか!大阪府民の皆さんに申し訳ないです!」 「そりゃそうやけど、今んとこ知らんと皆平和やん。」 「それよりこんなん大阪府民にバレたらどうなる思う?それでは街の人の声ですどうぞー。」 「お前ら誰の税金で飯食えてる思とんねん、アホボケカス!」 「ちゃんと仕事しろ。」 「大阪の治安は一向に治らんな。」 「っと、こんな具合に大阪府警の信頼はもう無くなるも同然やな。」 「それは…。」 テレビの街頭インタビューみたいな変なチームワークを見せるOICのやり取りに中童子は口篭った。 言われた事は事実であり、何年も前からやっていたと考えたら大阪府警の威信は確実に地に落ちる。 微妙な空気を消す様に一人が中童子に声を掛ける、それはここに来てまだ話をした事ない出動要請の時にすれ違った男だった。 「まあまあ、今日は来たばっかやしこれから仕事しながら考えましょうや。俺の名前は粉堀皇輝(しゃいん)、ここの通信関係主にやっとります。」 「しゃいん?あの…本名は?」 「いや、皇輝が本名やねんけど。」 「キラキラネームの先駆けー。そんなん恥ずかしくて呼べんからタコでええよ。」 「タコちゃうカツオやっちゅうねん!」 皇輝と言われた人に突っかかる切れ長目の女性、その女性に急に話を振られたがやり取りを見るしかない中童子。 苛立ちを落ち着かせた皇輝はまた話を戻した。 「あんな俺ここではカツオって呼ばれてるから、気にせんとカツオって読んでや。」 「カツオですか?」 「粉堀って名字は今日みたいに土佐堀通りとか言うとややこしいっちゅうことで粉もん関連って事でカツオ節からカツオ。」 その説明に「なるほど。」と納得した中童子だったが、まだ未解決の問題があった。 「なんで私の名前ねねなんです?」 「そりゃ殿の相棒だからでしょ?殿の相棒は秀吉に由来のある人って決まってんの。」 「あっ、あの殿の名前は?」 「もしかして誰も自己紹介しとらんの?」 「「・・・・。」」 カツオの問に静まり変えるOIC、「そりゃ不信感しかないわ!」と怒るカツオは丁寧に説明し始めた。 「殿の本名は羽柴貴巳、羽柴やから秀吉って事で殿。」 「あ、そういう事。」 「それ終わったら早よこないだの経費精算の領収書持ってきて。」 「っで。あのさっきから生意気な女が道明寺爽和、道明寺のさくら餅から取ってさくら。」 「分かんない事あったら聞いてー。」 またチャチャを入れてきた切れ長目の女性、さくらはニコッと笑った。案外いい人なのかな?と中童子も少しホッとしていた。 「そんであのかっこええ兄ちゃんが曾根崎修平さん、曽根崎心中のお初から取って初。」 「よろしく。」 デスクで提出書類を書いていたイケメンの男性、初もさくらと同じ様にニコッと笑って挨拶した。 「それからうちの座長、課長は花月満なんやけど吉本の劇場から取って座長。」 奥でパソコンとにらめっこしてる課長は事務処理に追われるみたいだった。 「名前やと地名の同じでややこしい人ばっかやねん、だから皆あだ名つけてん。」 「そういう事ですか。」 ようやく疑問がすべて解決してスッキリした中童子はカツオが仕事に戻ったのを見て自分のデスクに戻った。 だが仕事の内容を考えるとどうしても気落ちしてしまって座ってからはボーッとしているだけだった。 「持ってきた荷物ぐらい整理せいや。」 「そうですけど…。」 「それ片付いたらさっきの分の書類の書き方教えるから、さっさと片づけぇや。」 書類を作りながら言う殿が少し優しい人なのかと気を許しそうになったねねだが、この隠蔽特別班の環境下に居る以上あらゆる事が駄目だと気を引き締めつつもまた気落ちしていった。 大阪は今日も明るく楽しい街です。
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