3 天使のような君に出逢う

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「だめよ。まだ起き上がっては」  その耳に唐突に飛び込んできた声に、完全に不意を突かれたゲイリーは、飛び上がらんばかりに驚いた。そして声の方向に目を向ければ、そこには、ひとりの少女が立っていた。それは、ゲイリーが、異星の地表に転がり意識を失う直前に見た、あの亜麻色の髪の少女だった。  ……幻じゃ、なかったのか。てっきり天使かと、思ったのにな。  だが、そう見誤ってもおかしくないくらい、彼女の佇まいは美しかった。銀色のワンピース姿に、足先までも届く長い髪。凜とした紫色の瞳の整った顔立ち。その頬は、うっすらと薔薇色に染まり、そこに僅かに散らばる茶色いそばかすさえも、麗しい。  ゲイリーはしばらく、ただ、ぽかん、としてその少女を見つめていた。すると、少女はゲイリーの些か無遠慮な視線に構うことなく、すたすたと足早に彼の枕元に近づいてくる。そして、少女は掌をゲイリーの額に押し当てると、呟いた。 「熱は引いたみたいね。でも、まだ起き上がってはだめ。頭の傷は化膿してて、まだ完治していないわ。また高熱を引き起こさないとは限らない」  ゲイリーは、その声に漸く我に返り、彼女に尋ねた。 「……ここは、有人惑星だったのか。それじゃあ、君が俺をこうして看護してくれていたのかい?」 「そうね。そんなところよ」  少女はゲイリーの額から手を離さぬまま、柔らかな声音でそう答えた。ゲイリーの心情は、正直、余計なことをしてくれたな、というのが本音であったが、ひとまず、それは心中に隠し、少女に礼を述べることにする。 「……ありがとう。礼を言う」 「どういたしまして。……でも、これも、私の仕事だから」 「仕事?」  ゲイリーは少女の言葉を聞きとがめて、思わず聞き返した。自分の世話をするのが仕事、とはどういう意味であろう。  さては、彼女の家族あたりから、彼の看護を任された、そのくらいの意味だろうか。  だが、少女はその質問には答えず、顔に微笑みを浮かべると、ゲイリーの顔から手を離し、軽やかに身を翻すと、部屋から出て行った。
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