26 その肌から伝わる君の孤独

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 ゲイリーとニーアは、再び懐かしいガラスドームの書架の中にいた。黒い戦闘服に包帯を巻かれたままの姿で解放されたニーアの足はおぼつかず、よろよろと頼りないものだったが、それでも長い監禁から解かれた彼女の顔は輝いていた。 「ああ、私、やはりこの書架の中が好き……ここの空気が好き……」  ニーアは傷だらけの顔をほころばせながら、ゲイリーの横で笑った。だが、ゲイリーの顔を見上げるや否や、その美しい紫色の瞳を翳らせた。 「ゲイリー、あなたには嘘ばかり、ついてしまって……それだけでなく、その上で、あなたを、あわよくば、この書架の番人にしようとなんて、してしまって……」  ノヴァ・ゼナリャには夜が来ていた。陽のひかりが弱まりゆくドームの中に、ふたりの影が伸びる。 「君の愛した人の遺言だったんだろう、みな。気にするな……」  ゲイリーは、こともなげにそう静かに言う。ゲイリーは、明日には、この星をおそらく永劫に離れ、明日をも知れぬ身となる彼女を、これ以上責めたくなかった。彼が口にしたのは他のことだ。 「ニーア、なんでハックをあっさり認めた? そうしなければ、すこしは時間を稼げたかもしれないのに」 「そんな僅かな時間稼いでも、意味ないわ。それに、ゲイリー、あなたが来てくれたから……」 「俺が?」 「私、この命の最後には、生きた人間と嘘偽りなしに関わりたかったの。だからよ」 「最後なんて言うな。まだ死ぬと決まったわけじゃないだろう」
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