26 その肌から伝わる君の孤独

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 するとニーアはそびえ立つ本棚のひとつにもたれかかると、それには答えず、只、泣き笑うかのように顔を歪めた。そして、ゲイリーの目をまっすぐに見つめると、震える声を発した。 「……私、ずっと、こうして誰も欺くことなく、ただ、真摯に、何の計算もなく、心のままに、人として、人を愛したかった……」  そしてニーアはゲイリーの両肩に手を伸ばした。  ふたりきりの書架で、ふたりきりの視線が交差する。 「……ねぇ、灯を消して良い?」  ゲイリーが頷くと、ニーアは書架の壁面に軽く触れた。  すると、それまで煌々とガラスドーム内を照らしていた照明が、ふっ、と消えた。  そしてニーアはゲイリーの真横に寄り添う。ゲイリーはニーアのひんやりとした頬にそっと手を伸ばす。  ほどなくゲイリーのその指先は熱く湿った。気が付けば、ニーアの頬は涙に濡れている。暗闇の中、ゲイリーはニーアの頭部に手を回すと、その髪を優しく撫でた。すると、ニーアは、泣きじゃくりながらゲイリーにその肢体を寄せてくる。 「私、もう、ひとりじゃない、ひとりじゃない……」  ゲイリーは言葉もなく、ただひたすらにニーアの髪を撫でるのみだ。  するといきなり、ニーアの影が彼の顔を横切った。 「ゲイリー……最後にあなたに出逢えてよかった……」  そして次の瞬間、柔らかな唇が、ゲイリーのそれに触れた。闇に沈んだ書架の中、二度、三度と2人は口づけあう。そのたびに、深さを変え、角度を変えて。  ゲイリーはやわらかくも激しいその感触から、彼女の400年来の孤独が、自分の身体に染み渡ってくるのを感じた。  やがて、ニーアの涙声がゲイリーに耳に届いた。 「上、……見て、綺麗……」  その声にゲイリーはガラスドームの天頂を見上げる。すると書架の上には、ニーアの言うとおり満天の星が輝いている。  ……それから、ふたりは朝が来るまで、零れんばかりの星灯りの下で、お互いの影を重ね合った。
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