27 君の物語を、俺は綴ろう

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27 君の物語を、俺は綴ろう

 焼け焦げたノヴァ・ゼナリャの地表を、風が攫う。  リェムとゲイリーは、ガラスドームの残骸に佇んでいた。爆発四散したドームは、リェムの尽力で半日の時間を掛けてようやく漸く鎮火したが、今だ周囲の空気には、紙の焦げた匂いが色濃く残っている。数日をかけ、リェムの指揮による軍は、瓦礫の山となったガラスドーム跡を捜索したが、この惑星を離れる今日になってもニーアの遺体、または残骸は、ついに見つからずじまいだ。 「いまさら定説になった歴史は覆らんよ」  リェムが眉を顰めながら言葉を吐く。 「政府はニーアのハックを公にする気はないとのことだ。人心の動揺も計り知れないだろうからな。よって、「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」の真の歴史は、これからも闇に葬られたままだ。「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」による人類の宇宙開拓史はこのまま、栄光の歴史として語り継がれるのだろうな」  リェムの栗色の髪が生暖かい夕時の風に、ふわっ、と舞い上がる。彼はそれを手で押さえつけながら、うっすらと口に笑いを浮かべた。 「ニーアの勝ちだよ。彼女はこの書架のなか、表の仕事の裏で、機械として命じられた秘密の任務をやり遂げたんだ」 「……と言っても、彼女は、特に嬉しくもないだろうけどな。彼女が背負った仕事は、人間としては、あまりにも重く、孤独で、そして永すぎた」
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