4 欲望の赴くまま迷い込んだ先は

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 その緩慢な時間の只中で、ゲイリーは自らに問う。  ……この傷が癒えたら、自分はどうなるのか。この星が有人惑星である以上、規模の大小はあれど、宇宙港くらいあるだろう。ならば、そこには、警備艇も立ち寄るだろうから、事故にて不時着した旨を告げて、地球に戻る手続きができればよいのだが。  ……しかしそうはいかないだろう。ゲイリーはそもそも、辺境の星にあるサナトリウムでの療養を命じられた身だ。それは彼の身柄のデータに、深く刻み込まれてしまっている。となれば、地球に帰れることは、まずない。途切れた旅の続きを強いられるに違いない。  ゲイリーは、それは嫌だった。まだ、地球で治療を受けていた時分、サナトリウムの実情の噂は嫌と言うほど耳に入ってきたものだ。そこは、サナトリウムとはいうものの、実際はあらゆる依存症の廃人が集められた、社会から隔離するための空間でしかなく、治療も十二分に受けられるか分からず、また、患者は暴力的な力によるヒエラルキーの中で生かされており、おのおのの頭領(ボス)の意のままに動かなければ、命さえ危うい。そしてそこに送られて行った人間で、社会にふたたび帰ってきた者はいない。つまりは、サナトリウムでの療養とは、そんな星に送られることなのだ、と。  それを考えると、ゲイリーの胸中に、再び、やはり自分は、ここに不時着することもなく死んでしまった方が良かったという想いに苛まれる。  そしてその現実から目を逸らそうとすればするほど、ゲイリーのよくない癖が、再び体内で蠢きはじめた。  それまで頭の負傷で気が紛らさわれていた、アルコールへの飽くなき欲求が、再び、鎌首を持ち上げつつあったのである。
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