5 全くもって君は天使なんかじゃない

1/5
前へ
/119ページ
次へ

5 全くもって君は天使なんかじゃない

「私の名前はニーア・アンダーソン。ねえ、ゲイリー、「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」の話は知っていて?」  少女……いや、ニーアは、ゲイリーの真正面に立ち、次いで、そびえたつ本棚のひとつにもたれかかるように姿勢を崩すと、ゲイリーにそう質した。 「「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」……? あれは、たしか500年近く前の……」  ゲイリーはいまだ呆然としている脳内から、その知識を必死に引っ張り出した。  …・…「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」。その名は知っていた。たしか、あれはもう、歴史の教科書に載っているような事柄だが……。  そう、人類における宇宙植民時代の、はじまりのはじまりの時期の話だ。宇宙船の超光速有人飛行の技術が確立した約500年前、人類史上はじめて植民可能な星を求め地球を飛び立った宇宙船。その名は人類による宇宙開拓史に、燦然と輝く存在だ。若者を中心に、千人あまりの勇気と希望に溢れた開拓民を乗せ、「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」は地球住民の歓呼と祝福の声を浴びて旅立った、と、あらゆる書物に記されている。  そして、長い旅の末、植民に値する星を発見、開拓し、そこを拠点として人類は、宇宙開拓の手がかりを得、その挑戦は輝かしい成功に終わった。そして人間は今の繁栄に至ったとされている。いわば、「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」の乗員の面々は、宇宙開拓民にとって、アダムとイブに当たるような存在である、と綴る歴史書もあるほどだ。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加