5 全くもって君は天使なんかじゃない

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 ……だが、それがニーアと何の関係があるというのだろう?  ゲイリーはニーアの紫色の瞳を覗き込みながら、訝った。すると、その瞳がきらっ、と微かな光を帯び輝いた。いや、そびえ立つ無数の書架のなか、光の加減でそう見えたただけかも知れぬが。そして、次いでその美しい唇が動き、さらっ、と語を放つ。なんとも驚くべき発言を。 「このガラスドームにある本は全て、「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」の船内図書館をそのまま移設したものよ」 「移設だって……? この本、この無数の本全てが?」 「そう、船からそっくりそのまま移したの。「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」にはね、人類の叡智を宇宙に誇るべく、有史以来の書物を集めた広大な図書館を有していたのよ。……だから、いわばここは、人類の知識の塊とも言えるわね……だけどね、その中には、古式ゆかしい旧式の本、つまりは電子化されていない紙の書籍も多く含まれていたの。船からここに図書館を移設したのは良いものの、それが問題になったわ。このガラスドームの内部の温度や湿度は、機械によって管理されてはいるけど、それでもこの星の気候による紙の劣化は免れないのよ。……そこで私に仕事が回ってきたの」  無数の本が並ぶ書架に視線を投げつつ、ニーアは話し続ける。ゲイリーは、思わぬ話の展開に、ただ沈黙して彼女の話に聞き入るほかない。 「……私の仕事、それは、ここにある無数の紙の本を、全て電子書籍に置き換えること。私はその仕事を担ったの。あの、「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」の乗員の最後の生存者としてね……。以来、400年近く、私は毎日ここでその仕事をしているわ」
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