5 全くもって君は天使なんかじゃない

5/5
前へ
/119ページ
次へ
 床をのたうちまわる彼の傍らに、ニーアは静かに降下し床に着地する。そして、無表情にゲイリーを見下ろしながら、呟いた。 「……これでわかった? 本当だったら、もう2、3発蹴りを入れても良いところだけど、怪我人にそれはよくないわね、見逃してあげる」  口の中に血の味を感じながら、ゲイリーは、おそるおそるニーアを見上げる。するとニーアは付け加えるように、語を継ぐ。 「お酒なら地下室に真空パックのヴィンテージ・ワインがいくつかあったはず、それをどうぞ。……それでは、私はまだ仕事があるので」  そう言い残すと、ニーアは胸元が破けたワンピースのまま身を翻し、ガラスドームの書架の奥に消えていく。  ……今だ床に転がったままのゲイリーは、その後ろ姿を黙って見つめるしか術がなかった。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加