7 四百年来の孤独な作業

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「君は、俺の素性を、なにもかも分かっているんだな」 「……ええ、あなたが眠っている間に、ポケットの中に入っていた市民(コモン)カードの情報を読み取らせて貰ったわ」 「なるほどな……」  ゲイリーは顔を歪めたまま、納得したように頷いた。そして暫く遠くに視線を投げていたが、やがて話題を変えるようにニーナに再び話しかけた。 「これが君の400年来の仕事か。紙の本を朗読して、その音声情報から文字を電子化するのか?」 「そうよ。朗読すると同時に、私の声は、私の鼓膜を通って脳に信号として伝達するの。そこで音声を文字データに変換して、私の体内で電子チップに納められるの」 「チップに? それは君の何処から排出されるんだい?」  するとニーアは銀のワンピースの襟元をめくり、艶めいた肌に包まれた左肩をむき出しにして見せた。よく見るとそこには、一筋の切れ目(スリット)がある。 「この切れ目(スリット)がチップの排出口?」 「そうよ」  ニーアはゆっくりと服を元通りに戻しながら、事もなげに答えた。 「……君は本当に、この仕事のスペシャリストなんだな」 「そうね、この仕事に適応するように、私の身体は改造されたから」 「……改造か……」  ゲイリーは興味深く頷いた。そして、ニーアの紫の瞳を覗き込むと、質問を続ける。
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