11 「偉大なる開拓者号」についてのレクチャー

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11 「偉大なる開拓者号」についてのレクチャー

 陽のひかりが、ガラスドームを通して、書架のあちこちに跳ねる。そのなかをニーアはゲイリーを従えて本棚の間を歩き回っていた。  よく通るニーアの澄んだ声がガラスドーム内に響く。 「「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」はね、永い時を経て、この惑星に辿り着いたのよ。地球を出てから数十年近くが経過していたわ。その間に亡くなった乗員もいるし、そして、反対に船の中で誕生した者もいるわ。私のようにね……聞いている? ゲイリー?」 「……ああ」  ゲイリーはニーアの後を追いながら、些か間の抜けた返事をした。  ……頭がぼうっとしている。頭の傷のせいでも、アルコール依存症の症状が出ているわけでもない。ただ、今この空間でこうしてニーアと喋っていることに、現実味が持てないのだ。ゲイリーはニーアの背を見つつ思う。  ……まるで、この間の無人小型索敵機(ミツバチ)との戦闘が、嘘みたいだ。こうして、「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」の歴史を聞きながらニーアと過ごすガラスドームの中は穏やかこのうえなく、あの戦闘は、白昼夢のようにすら感じる。ことに、ゲイリーの前を、優雅に銀色のワンピースの裾を翻しつつ歩くニーアの姿は、とても、漆黒の戦闘着(スーツ)姿で次々と襲い来る無人小型索敵機(ミツバチ)を倒していった者と同一とは思えない。
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