11 「偉大なる開拓者号」についてのレクチャー

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 すると、唐突にニーアが振り向いた。その表情は、そばかすの見え隠れするバラ色の頬をふくらませ、少しむくれているようにゲイリーには見えた。 「ちゃんと聞いていてよ、ゲイリー。ここの虚空の書架の番人たるに、「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」の歴史の知識は必須なんだから」  ニーアのその台詞に、ゲイリーは溜息をつきつつ、小さな声で抗弁する。 「……俺は、ここの本棚の番人になるって、決めたわけじゃないぞ」  すると、ニーアはゲイリーに向き直り、紫の瞳を光らせながら、ぴしゃりと語を放つ。 「あら、じゃあ、大人しくサナトリウムに行くわけね」  ……それを言われると、ゲイリーには返す言葉もない。ゲイリーは唇を噛んだ。そして諦めたように肩をすくめる。この議論になると、全くもって彼に勝ち目はないからだ。なのでゲイリーは話題を変えようと試みた。 「……それはそれとして……、ニーア、じゃあ、君は地球を知らないのか」 「そうよ。それはそれは、美しい星、っていう伝聞しかね」  ニーアは亜麻色の髪を揺らし、心なしか頬を上気させ答える。それに対して、ゲイリーは感慨もなく返事した。 「この星と大して変わらないけどな。植生も気候も、ここは地球によく似ている」 「そうかもしれないわね。「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」は、それを見込んでこの星に着陸して、植民の礎を築くことに決めたんだから」
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