1 死にたがりの酔いどれ

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「ふん……、行ったか。それでいい」  ゲイリーは独りごちる。その声に重なるように、船内のどこかで激しく火の爆ぜる音がした。船底のエンジンがやられたな、と彼はその爆発音を他人事のように冷静に分析した。それを証明するように、船が激しく振動する。そして再度の爆発音。それは先ほどよりかなりゲイリーの船室に近い箇所で起こっているようだ。……そろそろ、俺も、やばいな。ゲイリーはそう思えど、その身は変わらずベッドの上に横たわったままだ。……これでいい、と彼は思った。自分の人生の最期がこんな形でも、別に構わぬ。彼はそう思った。  心残りを言うなら、上等のスコッチをもう一瓶くらい、飲んだくれてみたかったが。それと……。  そこまで考えたとき、三度(みたび)の爆発音とともに船が激しく上下した。そのいままでにない強烈な揺れに、ゲイリーの身体は容易くベッドから床に落下する。頭に激しい鈍痛が走ると同時に、彼の意識は仄暗い闇の底に落ちていった。  ……これでいい。……これで。  意識を失ったゲイリーを乗せた宇宙船は、火を噴きながら、虚空を迷走していく。いつ果てるともしれぬ闇の中を。  ……その航路の先に、やがて、ひとつの惑星が現われた。  その星の重力に捕らえられた船は、その惑星の表面に向かって、ゆっくりと、降下していった。
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