11 「偉大なる開拓者号」についてのレクチャー

3/5
前へ
/119ページ
次へ
 その言葉に、ゲイリーは歴史上よく知られた星に、今、自分が立っていることを初めて知る。 「……ふむ。ということなら、この惑星はノヴァ・ゼナリャか」  ニーアが満足げに頷いた。 「その通りよ。私たちは、この惑星を「新しい大地(ノヴァ・ゼナリャ)」と名付けたのよ」 「それは知っているさ。歴史の教科書にゃ、必ず出てくる名だ。「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」の着陸した惑星名としてな」  ゲイリーは、航海士学校での歴史の授業を思い出しつつ言った。学生時代、講義は退屈極まらなかったものだが、こうして自分の身に深く関わってくるとなると、とりあえず真面目に授業に出ていて良かったな、と遠い日を改めて思い返す。 「……でも、ここ、ノヴァ・ゼナリャの開拓は容易に進んだ訳ではないわ。いくら地球と似た惑星だからと云っても、私たちにとっては、未知の、そして未開の地だったわけだから。この星を植民に足りる星にしうるためには、大規模な治水工事や植林の作業が必要だった。そこで、私たちは、また多くの仲間を失った。工事中の事故で死んでいった仲間もいるし、未知のウイルスによる病に倒れた仲間もいる。それでも私たちは、団結してね、挫けることなく開拓を続けた……」  ニーアはそこまで一気に語を継ぐと、そのふっくらとした唇を、いったん閉じた。そしてどこか遠い眼差しをガラスドームの上に広がる空に投げかける。 「……それでもね、結局、このノヴァ・ゼナリャの開拓は未達成で終わってしまい、いまは、私しか住まない無人惑星になってしまったけれど。でも、この星を起点に、また多くの仲間が宇宙開拓に飛び立っていったのだから、私たちの苦労は無駄じゃなかったんだわ……どう、輝かしい歴史でしょ?」 「あぁ。全くだね。実に素晴らしい」  ゲイリーは淡々と感想を述べた。ぱちぱちと手をわざとらしく叩きながら。しかし、ややもってその手を止めると、今度はニーアに挑みかかるような口調で、疑問を口にした。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加