11 「偉大なる開拓者号」についてのレクチャー

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 ゲイリーは眉をしかめて聞き返した。 「なんでだ」 「いえ……そういう存在がいれば、分かるかな、って思ったのよ」  するとゲイリーは書架の床に視線を放り、自嘲気味に呟いた。 「……いるさ。大事な妻がいる。だが、俺が麻薬密輸事件でぶち込まれてからは一度も会っていない。入院していたときも会いに来なかったし、地球を離れる際も、見送りにすら来なかった。……俺に愛想を尽かしたんだと思う」 「麻薬密輸事件……」 「……市民(コモン)カードの情報を読んだのなら、俺の罪状は知っているだろう?」  ……ゲイリーはしばらく下を向いたままだった。やがて険しい表情の顔をニーアに向けると、語気を強め、きっぱりと言った。 「……だが俺はやっていない。誰にかは知らねえが、嵌められたんだよ」  書架に沈黙の影が降りる。やがて、ニーアがゲイリーの頬に唐突に手を伸ばす。ニーアの指が、すっ、と彼の顔に触れる。ゲイリーは突然のことに戸惑いの表情を見せたが、構わず、ニーアは、ゲイリーの無精髭をざらり、と撫でると、ぽつりとこう零した。 「……あなたも、辛い目に遭ったのね」 「まあな……」  ニーアの冷たい指の感触が、そのときのゲイリーには、なぜだか無性に心地よかった。
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