12 ピクニックとやらは陽気にやるものだが

1/5
前へ
/119ページ
次へ

12 ピクニックとやらは陽気にやるものだが

 その翌朝、ゲイリーがガラスドームの書架に姿を現すのを見るや否や、ニーアは微笑んで彼にこう告げた。彼女の手には、地下室にあった固形食物が詰め込まれた、些か古風な蔓で編まれた籠が握られている。 「毎日、このなかで、ここの解説ばかりではつまらないでしょう。今日は外に行きましょう」 「ほう、ピクニックでもするのかね」  ニーアが手にした籠の中身に目を留めつつ、欠伸混じりにゲイリーは尋ねた。些か意外な思いであった。ゲイリーがここに来てから、彼女がこの住居の外に出ようと言ったことは無かった。かくいうゲイリー自身も、この森に興味はあれど、如何に地球と植生を似せているとはいえ、なにが生息しているか分からぬ外に、のこのこ出て行く気は持てなかったのだが。 「ピクニック……それは良い響きね。そういうことにしましょうか。ピクニックなんて何百年ぶりかしら」  その言葉にゲイリーは、ニーアが人知れずこの星で独り生きてきた年月の永さを、今更のように感じ取る。対してニーアは紫の瞳をきらり、と楽しげに光らせつつ籠の中身を確かめており、この数百年ぶりの出来事を心から楽しんでいるように見えた。 「酒はないんだな」 「ちょっとぐらい我慢なさいな、ゲイリー。あなたも懲りない人ね」 「……ほっとけ」
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加