12 ピクニックとやらは陽気にやるものだが

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「食品、ずっと貯蔵してきた甲斐が有ったわ。こんな日が来るなんてね」  ニーアは嬉しげに呟きながら、固形食糧のパックのひとつをゲイリーに差し出した。袋を開けてみると、やや崩れかけたビスケットが中に詰まっている。ゲイリーはビスケットを頬張った。 「うん、ちょっと湿気てはいるが、美味い」 「それはなにより」  ニーアはにこにこと微笑みながら、ただ、ゲイリーを見つめている。 「ニーア、君は食べないのか?」 「私はいいの、私の身体のエネルギー源は、蓄電式のバッテリーだから」 「……そうか」  ゲイリーはそれを聴き、アンドロイドでもやはり彼女はかなり旧式のタイプなのだ、と知る。ゲイリーの知るアンドロイドは、体内発電してエネルギーを貯蔵するタイプが一般的だ。もっとも、元人間のアンドロイドは、彼の知る限りニーア以外には存在しない筈なので、簡単にその構造を比較しうることはできないのだろうが。  ゲイリーの生きる時代には、倫理上の観点から生身の人間を機械化して、アンドロイドに改造することは法で禁じられている。ゲイリーはビスケットを囓りながら思う。……そういう意味でも、ニーアはほんとうに宇宙でひとりぼっちなのだな、と。 「……残酷だな」 「え?」 「君をこんな境遇に追い込んだ奴らは、とてつもなく残酷だと言っているんだ」  生暖かい風がざわっ、と緑を揺らす。ゲイリーは手元にあった小石を掴むと、思いっきり川の中に投げ込んだ。水面が揺れ、微かな飛沫がふたりの頬を掠める。 「……私の愛した人を、余り悪く言わないで」  やがてニーアが小声で囁いた。その顔からは、先ほどの笑みは消え、紫の瞳には憂いの色が満ちている。 「それに、彼は、せめてもの慰めにと、私にこの森を残してくれたのだから」 「この森を?」 「そうよ」
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